主催: 公益社団法人 日本食品科学工学会
会議名: 日本食品科学工学会第72回大会
回次: 72
開催地: 日本大学生物資源科学部 湘南キャンパス
開催日: 2025/08/27 - 2025/08/29
p. 50-
【講演者の紹介】
児玉 大介(こだま だいすけ): キユーピー株式会社 研究開発本部 未来創造研究所 機能素材研究部
略歴:2008年 名古屋大学大学院 工学研究科 化学・生物工学専攻修了,同年 キユーピー株式会社入社,研究開発(ファインケミカルの商品開発,タマゴ・マヨネーズの基礎研究),グループ会社出向(工場,営業戦略室,経営企画室)を経て2021年より現職, 研究に加えて五ツ星タマリエの資格を活かし卵の認知啓発活動にも取り組む.
キユーピーグループでは,卵アレルギーに不自由のない世界を実現したいという想いで、様々な研究に取り組んでいる.今回は,ゲノム編集技術を活用した「オボムコイド(鶏卵の主要なアレルゲン)を含まない卵(以下,アレルギー低減卵)」に関する研究を紹介する.
食物アレルギーの原因食物は,第一位の鶏卵が約27%を占め,木の実類,牛乳,小麦がこれに続く.鶏卵のアレルゲンとなる物質は,主に卵白に含まれるタンパク質(オボアルブミン,オボトランスフェリン,オボムコイド,リゾチームなど)である.オボムコイド以外のタンパク質は熱に弱いため,十分に加熱すればアレルゲン性が低下するが,オボムコイドは熱にも消化酵素にも強く,加熱調理等の加工を施しても,アレルゲン性が失われない.そこで,オボムコイドを含まない鶏卵ができれば,加熱処理した本鶏卵または本鶏卵を使用した卵加工品であれば,卵アレルギーの方でも食べられるのではないかと考え,2013年から広島大学とゲノム編集を活用したアレルギー低減卵の基礎研究を開始した.ゲノム編集ツールは,広島大学が開発したプラチナTALENを用いることで,オボムコイド遺伝子のみをピンポイントで働きを止めることに成功し,アレルギー低減卵を作出することができた.
2022年より国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による産学連携プログラム「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」の「共創分野(本格型)」に採択され,応用研究を進めている.2023年には共同研究パートナーである独立行政法人国立病院機構相模原病院が提案した「重症鶏卵アレルギー患者におけるアレルギー低減卵の臨床的安全性の検証」が,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が公募した令和5年度「免疫アレルギー疾患実用化研究事業」に採択され,臨床研究が進んでいる.
アレルギー低減卵の物性・加工適正に関しては,広島大学・東京農業大学との共同研究で分析を行っており,通常卵と比較して食感などに若干の違いはあるものの,十分な調理・製菓適性を有することを確認している.さらに,現在は特に製菓メニューの検討を進めており,アレルギー低減卵を用いることで,通常卵と同等のおいしさを有しながら,アレルゲン性が大幅に低い菓子(クッキー,プリン等)を開発できる可能性を確認している.なお,オボムコイドはプロテアーゼインヒビターの機能を有することから,微生物リスクに対して評価を行ったところ,殻付卵・液卵において,オボムコイドの有無による静菌性の差は確認されなかった.
社会実装に向けては,ゲノム編集技術に対する社会コミュニケーションなども含めて多くのハードルがあると考えているが,卵アレルギーに不自由のない世界の実現に向けて,今後も引き続き協働パートナーと研究を進めていく.