主催: 公益社団法人 日本食品科学工学会
会議名: 日本食品科学工学会第72回大会
回次: 72
開催地: 日本大学生物資源科学部 湘南キャンパス
開催日: 2025/08/27 - 2025/08/29
難聴は65歳以上の3割が罹患する ”Common disease” である。難聴自体によるQOL低下に加え、その結果もたらされる社会的孤独や認知症発症も大きな問題であり、高齢者の難聴対策は重要な社会課題である。一方で、世界の難聴人口は5〜30億人におよび、経済的損失は年75兆円とされる。巨大なマーケットを有する疾患における “医薬品” の開発は、公的薬価負担や臨床治験など、本質的に社会的リソースを消耗するものであり、ビジネスとしてもハイリスクになる。巨額の投資と高い開発失敗のリスクを呑みながらも単価の安い製品を製造販売せざるを得なくなる医薬品開発のみに頼るかたちでは、この社会的課題に立ち向かうのは困難を伴うと考えられ、このような観点から、私たちの研究室では、難聴領域における “iPS創薬” の技術の、食品・飲料・ヘルスケア領域への応用展開をこころみている。
本発表では、iPS細胞技術を活用し、加齢性難聴の原因の1つとされる酸化ストレス蓄積について注目した低分子化合物研究を紹介する。加齢性難聴が早期に現れる遺伝性難聴患者および健聴者の末梢血単核球から樹立したiPS細胞を内耳細胞に分化誘導し、過酸化水素添加等の酸化ストレス負荷もしくは長期培養 (6週間) で、in vitro内耳細胞加齢モデルを構築した。多くの化合物を検討する中、興味深いことに、カテキン類 (Epicatechin, Epicatechin gallate, Epigallocatechin, Epigallocatechin gallate, Catechin, Catechin gallate, Gallocatechin, Gallocatechin gallate) 添加で、長期培養により認められる細胞死や細胞老化が抑制され、有意に細胞生存率が上昇していた。
本結果は、日本をはじめとするアジア地域において古くから飲用されてきた “緑茶” に豊富に含まれるカテキン類の、酸化ストレス抑制作用による、難聴進行抑制への応用可能性を示唆するものであり、加齢性難聴予防効果を想定させるものと考えられる。今後は、より詳細な作用機序などのサイエンスを積み重ね、健康機能食品や欧州ヘルスクレーム、特定保健用食品などのビジネスの可能性を探っていきたい。