糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
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セッションID: AS-1-5
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シンポジウム:糖尿病における心血管疾患の病態解明の現状
肥満症の病態と新しい肥満症治療ガイドライン
*徳永 勝人
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抄録

 肥満、特に内臓脂肪の蓄積は糖尿病、高脂血症、高血圧を合併し動脈硬化性心血管疾患と密接に関連する。多くの危険因子が一個人に集積することが動脈硬化発症の大きな基盤となっていると考えられ死の四重奏、メタボリック症候群、内臓脂肪症候群などと呼ばれている。内臓脂肪の蓄積は門脈血中の遊離脂肪酸、グリセロールを増加させ、それらが直接肝臓に流入することにより代謝異常を引き起こす。最近の研究により脂肪組織、特に内臓脂肪は様々なアディポサイトカインを分泌し、脂肪細胞の機能異常が肥満合併症を引き起こすことが明らかとなっている。内臓脂肪が増加すると抗動脈硬化作用、抗糖尿病作用、抗炎症作用を有するアディポネクチンが減少し、動脈硬化や糖尿病を促進するPAI-1、TNF-αなどが増加することが明らかとなっている。 これらのことを踏まえ、日本肥満学会では新しい肥満症治療ガイドラインで、肥満症の治療は(1)脂肪細胞の機能異常による肥満症(糖尿病、高脂血症、高血圧、高尿酸血症、脂肪肝、冠動脈疾患、脳梗塞)と、(2)脂肪組織の増加による物理的障害による肥満症(整形外科的疾患、睡眠時無呼吸症候群、月経異常)の2つに分けて考える必要があるとしている。肥満症の食事療法は(1)のBMI25以上で内臓脂肪面積100平方cm以上または健康障害を有する脂肪細胞機能異常による肥満症では数kgの体重減少でも代謝異常が改善するので緩やかな肥満症治療食18(1800kcal),16,14,12を用い、(2)のBMI30以上で脂肪組織の増加による肥満症では、病態の改善のため体重を大幅に落とさなくてはならないので、より厳しい肥満症治療食14(1400kcal),12,10を用いる。肥満症の食事療法では1000から1800kcalという幅広い摂取エネルギー量の中から医師や栄養士がひとりひとりにあった食事療法を選択するよう心がけねばならない。 肥満症の薬物療法は個々の危険因子に対応するものでなく、内臓脂肪を減少させたり、アディポサイトカインに作用したりして1つの薬物で複数の危険因子に対応するものが望まれる。肥満症治療のゴールを標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22に求める必要はなく、肥満症の治療は肥満に伴う合併症を減量させることにより改善することにある。体重を数kg、腹囲を数cm減少させるだけで糖・脂質代謝異常、高血圧などは著明に改善することを患者によく説明し動機づけにするとよい。

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© 2005 日本糖尿病学会
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