抄録
糖尿病性神経障害は、糖尿病性慢性合併症の中で最も発症頻度が高く、多彩な臨床症状を呈することにより糖尿病患者のQOLを著しく低下させるのみならず、心血管系自律神経障害が生命予後に及ぼす影響には計り知れないものがあり、その予防と早期治療が重要である。 糖尿病性神経障害が高血糖を基盤として発症・進展することは明らかであり、糖尿病患者の血糖値を長期間に亘り厳格にコントロールすることにより、神経障害の発症・進展を阻止しうることが、これまでの大規模臨床研究により明らかとなっている。しかしながら、糖尿病患者において健常者と同じ血糖動態を得ることは極めて困難であり、日常診療で利用可能な方法による厳格な血糖コントロールのみでは、神経障害の発症・進展を完全に阻止することは不可能であることも明らかとなった。そこで必要とされるのが、神経障害の成因に則った治療薬の開発である。 糖尿病性神経障害の成因は、代謝因子と血流因子に大別され、代謝因子の代表的なものとして、ポリオール代謝活性の亢進、プロテインキナーゼC(PKC)活性の異常、非酵素的糖化反応の亢進および酸化ストレスの亢進が想定されている。これらの成因仮説は、それぞれが独立した観点から想定されたものであるが、近年の検討によりそれらが互いに密接な関連性を有していることが明らかとなってきた。我々は、中でもポリオール代謝活性の亢進が、これら成因の最も上流に位置し、神経障害の成因として中心的役割を担っていることを明らかにするとともに、アルドース還元酵素阻害薬が神経障害の予防と治療に有効であることを報告してきた。しかしながら、進行した神経障害に対しては代謝因子の是正による治療効果を期待することは困難である場合が多い。そこで我々は、神経障害に対する新たな治療法としての塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)局所投与および血管内皮前駆細胞移植の有用性について検討してきた。本シンポジウムでは、これらの成績をお示しし、神経障害の新たな治療戦略について考えてみたい。