抄録
糖尿病治療の目的は血管合併症の発症進展阻止にある。その目的達成には糖尿病を発症早期から適切に管理することはきわめて重要である。近年の大規模な疫学調査成績あるいは介入試験成績に基づくエビデンスとして、心血管疾患の進展リスクはIGTすなわち耐糖能異常の時期からすでに高まることが注目されている。現行の糖尿病診断基準(血糖値のカットポイント)が網膜症という細小血管合併症の発症を基準にしたものであり、大血管障害を念頭に置いたものではない。しかし、食後の急峻な血糖上昇(グルコーススパイク)が心血管イベントを代表とする動脈硬化性疾患と密接に関連することは、明確なエビデンスとして定着しつつある。食後高血糖は耐糖能異常者でまず最初にみられる病態であり、背景にはインスリン抵抗性に加えて食後インスリン追加分泌不全の存在が挙げられる。食後高血糖は大血管病変リスクのみならず膵β細胞オーバーワークからβ細胞機能の低下あるいは細胞数の減少まで惹起しかねない。 従って心血管疾患の進展阻止を目指した抗糖尿病薬治療としては食後高血糖の是正に加えてインスリン抵抗性をはじめとする初期病態の改善を念頭に置くべきであり、(1)食後血糖改善薬:a-グルコシダーゼ阻害薬および速効短時間型インスリン分泌促進薬、(2)インスリン抵抗性改善薬:チアゾリジン系薬剤およびビグアナイド薬があげられる。これらはすでに基礎・臨床レベルで一定のエビデンスが示されているものである。特にチアゾリジン系薬剤は2型糖尿病におけるインスリン感受性改善に加えて、脂質代謝改善効果、アディポネクチン増加作用、微量アルブミン減少などを介して直接的に動脈硬化進展阻止に働く可能性が示唆されている。現在、2型糖尿病における心血管疾患の発症進展防止への効果を検証するためPROACTIVE試験が欧州で、PROBE試験が日本で進行中である。 心血管疾患は生命予後を左右するものであり、その進展阻止は糖尿病管理上極めて重要である。そこに抗糖尿病薬が十分な役割を果たすには、(1)糖尿病発症後より早期からの介入、(2)積極的な併用療法、(3)アウトカムスタディによるさらなるエビデンスの蓄積が必須である。