日本エイズ学会誌
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シミュレーションにより検討した日本における最適なHIV母子感染予防対策
稲葉 淳一永松 あかり箕浦 茂樹宮澤 広文安岡 彰岡 慎一帖佐 徹
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2002 年 4 巻 1 号 p. 27-36

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抄録
目的: 現在と近未来における日本に最適なHIV母子感染予防システムを比較検討する.
対象および方法: 「ACTGO76」, 「ACTGO76+選択的帝王切開」, 「選択的帝王切開のみ」, 「HIVNET012」と, HIV母子感染予防を行わない「未対策」の5システムを検討の対象とした. 費用としては, 次世代を生み出す総費用として計算し, 妊婦検診, 母体HIV抗体検査, 妊娠中および分娩中の抗HIV治療, 帝王切開等の分娩費用, 粉ミルク (9か月間), 新生児のPCR検査, そしてHIV感染児の治療費用の総額とした. 各費用については健康保険点数に準拠して計算した. 効果としては, 非感染新生児総数と, 各予防システムにより増加した非感染新生児数を用いた. 各予防システムにおける垂直感染率は文献上のデータを利用した. 日本の現状でのHIV陽性妊娠の頻度は0.01%から0.02%程度と推定されるので, シミュレーションは0.005%から1%の範囲として比較検討を行った.
結果: HIV感染児の総治療費が7,500万円の場合, HIV感染妊婦の割合が0.02%以下では, 「未対策」とHIV予防システムの費用対効果比はほぼ同じであり, それを超えるとHIV予防システムを稼動させた場合の費用対効果比の方が良好となった. 中でも「ACTG076+選択的帝王切開」システムが最良の効果と最良の費用対効果比を示した.
結論: ACTG076に選択的帝王切開を加えた母子感染予防システムは, 倫理的のみならず経済的にも現在の日本におけるHIV母子感染予防手法として適切である.
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