抄録
5.1建物の沈下載荷盛土により地盤改良を行った地盤に, 3種類の建物を建設し沈下測定を行った。各建物の沈下性状を次にまとめる。(1)本館本館は地下1階, 地上12階の支持くい基礎を有しており, 建物沈下は支持層の沈下を示すものである。1070日間で建物は平均約15cm沈下した。不同沈下量は南面に0.8cm, 東面に1.6cm生じたが, 傾斜角は1/10000, 1/5600と小さく, 構造上の支障は認められない。(2)建設事務所本建物は2階建の直接基礎を有し, 建物沈下は地表面の沈下を示すものである。建物の載荷盛土の法面に位置しており, 1070日間で東側が35.7cm, 西側が37.2cmで不同沈下が生じた。(3)駅舎連絡橋本建物は2階建の支持ぐい基礎を有しており, 建物沈下は支持層の沈下を示すものである。建物は載荷盛土の法面に位置しており, 353日間で, 東側が5.1cm, 西側が3.9cmで不同沈下が生じた。建設事務所と同様に載荷盛土による影響が不同沈下としてあらわれた。約3年間の測定からみて, 本館および建設事務所の沈下は年々減少傾向にある。5.2地盤の沈下自由地盤の沈下を地表面と層別沈下計とにより測定し, 建物基礎底面地盤の沈下を層別沈下計および連続沈下計にて測定した。地盤の沈下性状を次にまとめる。(1)自由地盤の沈下本館測定期間中の1070日間で, 埋土層下端の沈下量は35.9cm, 沖積粘土層下端の沈下量は15.9cmとなった。したがって沖積粘土層の圧密沈下量は20.0cmとみられる。洪積層下端の沈下量は16.8cmとなった。本館建物の沈下量は平均で約15cmであり, 両沈下はほぼ同じである。(2)本館周辺の地表面の沈下本館周辺の昭和56年2月28日から昭和57年2月16日まで約1年間の地表面沈下は, 6.5〜10.9cmの範囲で平均では約9.0cmとなった。(3)基礎底面地盤の沈下本館基礎底面下の1135日間の沈下量は, 沖積粘土の圧密沈下量は8.1cm, 洪積互層の沈下は16.0cmとなった。基礎底面の隙間は沖積粘土の圧密量を示すもので, 建物中央部は1.02cm, 建物隅部は平均0.2cm, 建物側部は平均7.8cmとなった。自由地盤および基礎底面下の洪積層の沈下はほぼ同様で年々減少傾向にある。5.3くい体に作用した軸力基礎ぐいの打設後, 工事の進行に伴い建物荷重が漸増する状態でくいの軸力を測定した。測定結果を次にまとめる。(1)軸力の大きさくい頭部には建物荷重が作用し, 粘土層下端の軸力は, 基礎底面下の沖積粘土層の圧密沈下の進行に伴い増加した。最大軸力は負の摩擦力によるものとみられ284tから455tの範囲で平衝状態となっている。くい体の曲げモーメントは粘土層中央部付近において生じ, 2.3t・m〜16.6t・mの範囲にある。(2)軸力と計算値との比較測定軸力と, 砂質土の摩擦力をτ_s=3+N_s/5t/m^2, 粘土層の摩擦力をτ_c=q_u/2t/m^2として計算し, 等価影響円法による低減率を考慮した負の摩擦力と比較した。単ぐいの実測値は計算値の0.71倍, 列ぐいの実測値は計算値とほぼ同じであった。中ぐいの実測値は計算値の1.48〜2.25倍(平均 : 1.73倍)となり, 低減率の0.3は過大である。実測値より低減率を逆算すると0.6〜1.12, 平均では0.78となる。(3)中立点位置軸力分布からみると, 中立点は沖積粘土層下端とみられる。(4)互層中の摩擦力くい先端根入れ部の互層中の摩擦力は, τ=(2〜14)+N/5t/m^2程度である。以上, 本報では載荷盛土を行った地盤に建設された建物の沈下測定結果およびくいの軸力測定結果につき述べた。臨海部の埋立地盤は, 造成後日が浅く地盤沈下が進行している状態にあって, 在来地盤に比し不明な点が多い。本測定により建物および地盤の沈下性状, ならびに地盤沈下と実ぐいの負の摩擦力との関係などを知ることができた。しかし, 本測定結果は地盤沈下地帯における一つの事例にすぎず, 未解明で残された問題もある。今後とも観測を継続する積りである。