抄録
1.研究の目的 発表者らは,結婚や出産に伴ってライフステージが多様化する30歳代の働く女性を主たる対象にして,居住地選択と仕事や生活との関連性を,ジェンダーの視点から検討してきた(神谷ほか 1999;若林ほか 2001;木下ほか 2002;中澤 2002).それらの結果をふまえて,本研究では働く女性のライフステージの進行と居住地選択との関係を検討することを目的とし,とくに最近の住宅政策で重視されつつある「近居」の役割に着目した分析を行うことに主眼をおく.2.方法 本研究では,東京圏(1都3県)に住む共働き世帯の30歳代の女性299人(うち,子どもあり156人,子どもなし143人)に対して2003年2月にインターネットを通じたアンケート調査を実施し,その中から20人(うち,子どもなし12人,子どもあり8人)を対象にしたグループ・インタビューを行った.分析に当たっては,子どもの有無によってライフステージを区分し,おもに親元の所在地に着目しながら居住地選択との関連性を検討した.3.子どものいない既婚女性の居住地選択居住地選択で重視される項目を集計すると,子どものいない共働き世帯の半数以上が駅への近さと価格・家賃を挙げ,職場への近さも比較的重視している.これは,若林ほか(2001)が調査したシングル女性の場合と類似している.グループ・インタビューによると,仕事を自宅に持ち帰る人が少なくなく,彼女らが仕事を優先して生活していることがわかる.一方,シングル女性と異なる特徴もいくつかみられる.まず住宅の広さや間取りが3番目に重視されているが,これは高い住宅性能を求めるだけの収入があることを示しており,持家率も47%に達する.また,親元への近さが5番目に挙がっているのも目を引く.グループ・インタビューの結果によると,回答者の中には出産の意志をもつ人も多く,必ずしも全員がライフスタイルとしてDINKsを選びとっているわけではない.また,家庭内での家事の分担を尋ねた質問では,約7割の人は自分が主に担っていると回答しており,そうした負担を軽減して仕事との両立を図るために,親元に近い場所を選んだ人も少なくないと考えられる.4.子どものいる既婚女性の居住地選択子どものいる世帯になると,価格・家賃や住宅の広さ・間取りが比較的重視され,持家率も68%に達する.そのかわり,利便性に関わる項目の優先度は低く,むしろ子どもの教育や保育環境に関わる項目が上位に挙がっている.このことは,通勤時間や労働時間が子どものいない世帯よりも短いことにも現れている.グループ・インタビューでも,参加者の間で働き方や住宅事情は様々でも,共通する関心事は子どもの教育と保育にかかわる問題であった.これは,親元への近さが4番目に重視されていることとも関係している.回答者の中で実際に親と同居している人は1割にも満たないが,東京圏内に親元がある人は約9割を占め,子どもの有無と親元が東京圏内にあるかどうには5%水準で有意な関連性がみられる.5.考察以上の結果から,ライフステージの進行に伴って居住地選択の基準は変化することが明らかであるが,親との近居によって仕事と家事・育児の両立を図る人たちの存在も明らかになった.大都市で近隣ネットワークと親族ネットワークが代替的に利用されている事実は既に報告されているが,本研究の結果は,都市化が家族関係を希薄化するという通説とは裏腹に,「ゆるやかにつながる家族」が根強く残存していることを示唆している.ただし,親族ネットワークを家事・育児に利用できるのは,親元が生活圏内にある人たちに限られるため,既婚女性が就業を継続するための「資源」には,出身地による格差が生じている可能性もある.