抄録
はじめに
平野に面した山岳の中腹において、夜間に強調される気温の逆転現象が存在することはよく知られている。筑波山 (標高 877m) の西側斜面においても、こうした斜面温暖帯の観測が過去に数多く行われている (吉野,1982; 小林, 1979 ほか)。
しかし過去の観測事例の多くは、最高最低温度計を用いた事例研究であったり、数回のサーモグラフィー観測から導かれており、斜面温暖帯の季節を通じた発生事例、またはその強度を時間解像度の細かいデータから検証した例は少ない。
また、過去の研究において斜面温暖帯の最も強いのは標高 200-350m の帯状の領域であることが指摘されているが、面的なデータら、こうした高温域が最も強調される標高と方角を明らかにした研究事例も少ない。
そこで本研究では、筑波山西側斜面に面的に展開した気温ロガーの長期間のデータを用いて、冬季において斜面温暖帯が発生している頻度と気象条件について解析を行うとともに、気温逆転が強調される標高と方角についても事例を集め温暖帯の分布状況を明らかにすることを目的とした。
データ、解析手法
2002年 11 月 1日から 2003 年 2 月 7 日の約三ヵ月間にわたり、筑波山西側斜面の標高 30m から 400m の 9地点に面的に気温ロガーを展開した。気温ロガーはすべて地上 1.5m の高さに設置され、10分間隔でデータを取得した。
平野上の風向風速は、約 12km 離れた下館、他 7点の AMeDAS 風向風速を参照した。
平野における逆転層強度の見積もりに筑波大学陸域環境研究センターの 30m 鉄塔の気温プロファイルデータを、また、おなじく筑波大学陸域環境研究センター圃場の正味放射量、GMS 赤外画像を援用して、晴天日を特定した。
結果
2002年 11月 から 2003 年 1月について調査した結果、11月において 12例、12月において 16例、1月において 10事例の斜面温暖帯の事例を見ることができた。
斜面温暖帯が強調される方角と標高を調べるために、筑波山の北西、西、南西斜面とで個別に気温の断面を作り、比較した結果、過去の研究と同様に、斜面温暖帯が見られるときには帯状に全ての方角で高温が起こっている傾向が見られた。ただし気温逆転が最も強いのは北西斜面であり、過去の研究 (郡司, 1958) に反する結果となった。
図に 11月と 12月における典型的な斜面温暖帯の事例を示した。これによると、過去の研究で斜面温暖帯が強調されていた標高 200m の気温は夜間を通じて一定に保たれており、平野部の気温と大きな差が生じている。しかし、標高 400m の気温と比較しても斜面温暖帯の強度は 200m のそれと差は少なく、気温逆転が過去の研究で指摘されたよりも高い標高にまで到達していることを示唆している。また、11月においては平野部の気温は明け方にむかって低下し、それにともなって気温逆転が強くなってゆくのに対して、12月では、平野部の気温低下が夜半前で飽和し、強い気温逆転がそのまま夜明けまで維持される事例が多く見られた。
発表においては、平野の逆転層、風向風速との対応も含めて、斜面温暖帯の冬季全体の実態について報告する。
(図: 上段は北西斜面上の気温時系列で、実線が標高190m、鎖線が400m、点線が30m に対応している。矢印は下館における風向風速。中段は 190m の気温と 30m の気温の差、下段は 400m と 30m の気温の差。a) は 2002年 11月11日 の事例。b) は 2002年 12 月16 日の事例。)
