抄録
I.はじめに_-_釜ヶ崎における高齢者増加の背景 1999年以降,大阪市における野宿生活者支援は,行政による公的な支援だけでなく,民間の団体や法人などによる支援が活発化してきた。本報告の調査対象地である釜ヶ崎(あいりん地区)には,これらの民間団体の多くが集中し,高齢の元野宿生活者への定住化を前提とした居住支援が行われている。このような支援をとおした高齢者の流入は,寄せ場としての釜ヶ崎に付与されていた空間的機能の変貌を加速させる要因ともなっている。とはいえ,寄せ場としての釜ヶ崎に高齢者が存在しなかったわけではない。高齢者であれ,仕事さえできれば生産する存在として期待はされる。しかし,ひとたび仕事に就けなった高齢者は,あいりん体制下での福祉行政のもと,一律に生活保護施設への入所という措置がとられ,釜ヶ崎からは姿を消していくことになる。高齢者は存在しても,生産活動の場から切り離された高齢者の問題が地域内で可視化されることは少なかったのである。しかし,ノーマリゼーションに向けた動きが高まる中で,脱施設化→居宅での生活保護適用が認められるようになり,高齢期を地域内で送る人が増加している。とりわけ釜ヶ崎においては,簡易宿泊所を転換した野宿生活者向けの住宅のストックが多く形成されたことから,野宿生活者のなかでも就労不可能とされる65歳以上の高齢者が生活保護制度を利用して入居するようになり,地域内の高齢化を促す存在となっている。_II_.目的このように高齢者が増加する中で,単身高齢者の生活支援を誰が担うか,という問題が浮上してきた。釜ヶ崎に居住する高齢者の多くは生活保護受給者であり,家族からの支援を期待できない単身高齢男性が大部分を占める。また,過酷な野宿生活を強いられてきたために,身体的にも精神的にも専門的なアフターケアが求められている。本報告では,釜ヶ崎に前述のような背景をもった高齢者が多く定住してきたことによって生じるニーズと,このニーズに地域がどのように対応しているかという点について,とりわけ介護にかんするニーズと支援体制について着目する。また,釜ヶ崎では,高齢者の流入に合わせて,営利系の介護事業所の参入が活発化したのと同時に,地域内を熟知している既存の支援団体が非営利事業所の形態をとり,介護事業への参入を見せている。ここでは,非営利系の事業所の取り組みを行政の補完的役割として位置づけし,それがいかに地域の高齢者支援に結びついているかを提示することを目的とする。_III_.NPO法人A事業所の取りくみ 本報告では,釜ヶ崎を中心に介護事業を展開しているNPO法人Aを取り上げる。NPO法人A(以下A事業所)は,2000年に設立し,2001年より介護事業を開始している。介護保険サービス以外にも,生活支援や生きがい対策事業として,病院へのお見舞い,デイサービス,配食サービスなどのボランタリー部門を展開しており,介護保険制度内のケアプランでは手の届きにくい部分をカバーしている。このA事業所の大きな特徴は,ここに所属するホームヘルパーの半数以上が野宿生活経験者である点と,サービス利用者8割が元野宿生活者を含む生活保護を受給している世帯であるという点にある。ヘルパーの多くは,大阪市の野宿生活者自立支援事業の一環として行われた技能講習制度によりホームヘルパー2級の資格を取得し,A事業所に雇用された経緯を持つ。_IV_.おわりにA事業所は,野宿生活の経験という釜ヶ崎に暮らす高齢者特有の問題に対応できるヘルパーの存在と,介護保険+ボランタリーの複合型による柔軟なサービス供給によって,地域のニーズへの対応が可能となっている。また,ヘルパーと利用者の野宿経験の共有は,介護される側とする側相互のセルフヘルプにつながるという期待ももたれる。一方で,ヘルパーの現場教育や,元野宿生活者としてまなざされる中での信頼の獲得など,課題も多く存在している。