抄録
1.はじめに中国地方には、毎年のように中国内陸沙漠から風成塵が飛来し、兵庫県中央部では年間約4トン/haが降っている。風成塵は春先から初夏にかけて多く飛来するだけでなく、冬季にも雪に混じって降るので、窓ガラスが汚れたり、雪が黄色に染まることもある。最終氷期には完新世よりも数倍も多い風成塵が堆積した中国地方において、倉林(1972)は、大山火山灰に含まれる2:1鉱物が風成塵として混入したものと考え、成瀬・井上(1983)・井上・成瀬(1990)は、日本海沿岸に発達する古砂丘に埋没するシルト層が風成塵を主母材としたものであること、更新世の古土壌にも風成塵が多量に混入していることを示唆した。2.風成塵堆積層(レス) 中・四国地方には、風成塵堆積層(レス)が各地で確認され、更新世段丘上、古砂丘中、大山や三瓶起源の火山灰層の間にも堆積している。その多くは現地物質と混合しているが、石灰岩台地上や玄武岩台上などでは現地物質との混合比の少ない風成塵層が見られる。こうした風成塵は、微細石英のESR信号強度から、MIS 2には、瀬戸内海以北の地域にアジア大陸北部先カンブリア紀岩地域から北西季節風によって運ばれた風成塵が、瀬戸内海以南にはゴビ、タクラマカンといった中国内陸沙漠から偏西風によって運ばれた風成塵が堆積した。完新世には全域が後者の地域から運ばれるようになった(Toyoda & Naruse,2002) 。 中国地方に分布する完新世黒ボク土は、三瓶山と大山周辺にアロフェン質黒ボク土が分布する以外は、非アロフェン質黒ボク土が広域に分布している(井上,1981;松山・三枝,1994)。これは風成塵の混入が多く、火山灰の風化により供給されるアルミニウム量が少ないためである。3.泥炭地に堆積する風成塵と流水物質 田中・野村(1992)をはじめ、彼らによる一連の研究によって、中国山地では寒冷期に麓屑面物質が多く堆積し、その編年が明らかにされている。中国山地の東端にある兵庫県黒井盆地(稲津,2002)では、最終氷期のハインリッヒイベントのような寒冷期に風成塵が多く堆積し、この直後に粗粒の流水物質が増加した。岡山県細池湿原(鈴木,2003)では3万年前以降、Is-4_から_Is-1に背後山地からの粗粒な流水物質が増加した。すなわち、氷期のモンスーン変動を泥炭中の無機物量や粒度組成の変動から読み取ることができる。4.風成塵の堆積からみた古環境変動 最終氷期には、アジア大陸から飛来した風成塵が山地斜面、平坦面、古砂丘、火山灰層上に堆積し、風成塵層レスを形成した。とくに寒冷なMIS 2には先カンブリア紀岩地域から運ばれた風成塵が瀬戸内海以北に堆積し、MIS 1には中国内陸沙漠から運ばれた風成塵が全域に堆積し、両時期におけるポーラーフロントの位置と北上時期を復元することができる。また、最終氷期以降のモンスーン変動を山地からの流水物質と大陸からの風成塵の堆積状況を分析することによって復元可能である。引用文献稲津寛子(2002) 兵庫教育大学卒業論文. .井上克弘(1981)ペドロジスト25. 井上・成瀬(1990)第四紀研究29. 倉林三郎(1972)地質学雑誌78. 松山信彦・三枝正彦(1994)ペドロジスト 38. 成瀬・井上(1990)地学雑誌92. 鈴木信之(2003)兵庫教育大学修士論文. 田中真吾・野村亮太郎(1992) 地理学評論65. Toyoda, S. & Naruse, T. (2002) 地形23.