抄録
_I_.はじめに 山岳の山頂部における気候要素の変化が,平地部とどのような関係にあるかは,山岳地域の気候環境を考える上では重要である.本研究では,屋久島を対象として,標高の変化による気温および相対湿度の変化がどのように日々変化しているかを明らかにするとともに,それらがどのような要因によって規定されているのかを解析した._II_.データと解析方法屋久島の温度および湿度環境を明らかにするため,東部の安房林道を中心に観測を行った.観測機器を設置した地点は,環境文化村研修センター(175m),600m地点(620m),荒川(900m),屋久杉ランド(1010m),淀川(1360m)と黒味岳(1800m)である.使用した測器は,オンセット社製の温湿度計(ホボ プロ H08-032)である.さらに,黒味岳にはVAISALA社製のミニ気象ステーションMAWS201を設置した.観測間隔は1時間である.この観測で得られた,気温と湿度の標高による変化を,黒味岳に設置したミニ気象ステーションのデータと鹿児島の高層観測データを利用して解析した.解析は,2000年10月から12月の3ヶ月間を対象とした._III_.結果 海岸部から山頂部にかけてみられる気温変化の中で特徴的な現象として,山頂部における気温の逆転がある.解析期間中に,淀川と黒味岳の間で顕著な日平均気温の逆転現象が見られたのは13日あり,このうち11日は移動性高気圧に覆われた晴天日に起こっていた.気温の日変化の標高による違いを見ると,昼間,荒川より標高の高い地域では同程度の気温となり,標高の変化にともなう気温差は小さい.これに対し,夜間になると,海岸部から淀川までは標高の高い地点ほど気温の低下量が大きく,標高の違いによる気温差が大きくなる.しかし,山頂部に位置する黒味岳の夜間の気温の低下量は,荒川と同程度であるため,夜間を中心に淀川と黒味岳の間で顕著な気温の逆転が起こっている.そこで,対象日における午後9時の屋久島における標高の変化による気温変化と鹿児島の自由大気の気温の鉛直構造を比較すると,黒味岳の気温は,鹿児島の同高度の気温とほぼ同じであるのに対し,淀川や屋久杉ランドの気温は,同高度の鹿児島の気温よりかなり低く,放射冷却による,夜間の気温の低下が斜面上でより強く起こっていることを示していた. 月平均の相対湿度は,海岸部から山地部にはいり,標高が高くなるにつれ高くなる傾向を示す.特に,600m地点から淀川までは,季節による変化はあるものの,定常的に90_%_以上の値を示し,非常に湿った状態が継続している.これに対し,山頂部に位置する黒味岳の相対湿度は海岸部に近い値を示し,淀川から山頂部にかけての地域で湿度の減少が認められる.黒味岳では,日レベルでも相対湿度の急激な低下が,しばしば起こっており,日平均相対湿度が50_%_より低くなるケースが観測対象期間中に12日出現した.このような急激な低下が起こっているケースでは,移動性高気圧の支配下にあることが多かった.そこで,鹿児島と屋久島の相対湿度の鉛直構造の比較を行った.鹿児島の自由大気の鉛直構造においては,逆転層を境にして急激な相対湿度の低下が起こっており,屋久島山頂部の黒味岳ではこれに対応した相対湿度の低下が見られたが,淀川より低標高の地域では,急激な相対湿度の低下は認められず,同高度における自由大気の相対湿度との間に大きな差が生じていた. 山頂部を中心とした高標高域で,気温の逆転現象がしばしば起こっていることや相対湿度の急激な低下が起こっており,その下の森林帯にある標高帯と異なった変化をしていることが明らかになった.このような違いが認められた一因としては,植生の被覆の違いが影響していると考えられた.