日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会春季学術大会
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奥日光,湯川における自然堤防の形成とその湿原への影響
*尾方 隆幸湯本 学
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p. 000020

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抄録

1. 研究の目的湯川は,奥日光の湯滝から竜頭ノ滝までの約7kmを流れる山地河川であり,その中流部で戦場ヶ原の湿原の中を蛇行し,自然堤防を形成する.河川氾濫と堆積作用の頻度は,湿原の景観形成に大きく影響すると予想される.発表者は,2000年から戦場ヶ原の景観変化に関する野外調査を行っており,その結果の一部については既に発表した(尾方 2002).本発表では,湯川の地形形成作用が戦場ヶ原の景観変化に及ぼす影響について考察する.2. 調査地域および調査方法地形的に湯川は4つの区間に分けられる(上流から順に区間_I_,区間_II_,区間_III_,区間_IV_とする).上流部の区間_I_および下流部の区間_IV_では,湯滝や竜頭ノ滝を形成した火山性の堆積物中を流れる.中流部の区間_II_・_III_では戦場ヶ原の湿地堆積物中を流れ,区間_II_では蛇行が著しい.区間_III_では左岸に戦場ヶ原が広がるが,右岸には火山性堆積物が分布する. 発表者らはまず,自然堤防が形成される区間において,微地形と地表面に観察される新鮮な河成堆積物の分布の確認を行った.その結果を踏まえて区間_III_の左岸(標高約1,390m)に測線を設定し,微地形のレベル測量,検土杖とハンドオーガーによる堆積物の観察と記載を行った.また,氾濫の規模と堆積作用の頻度について考察するため,1944_から_2002年のアメダスデータを検討した. 3. 結果および考察測線上には 3つの堆積面(高位から順に堤防_I_面,堤防_II_面,堤防_III_面とする)があることがわかった.堤防_III_面の植被度は低いが,堤防_I_・_II_面にはシラカンバ・カラマツ・ズミ・ミヤコザサなどが生育し,拠水林が形成されている.堤防_I_面と湿原との漸移帯にはホザキシモツケが侵入し,谷地坊主が発達する湿原へと移行する.河床との比高は,堤防_I_面で約2.5m,堤防_II_面で約2.0mである.堤防_I_面から後背湿地にあたる湿原にかけては緩く傾斜する.河床および自然堤防は主に砂・シルトで構成されており,礫はほとんどみられない.堤防_I_・_II_面では,堆積物中から風成のFP(榛名山二ツ岳軽石:1.4kyr B.P.)が確認され,その深度から自然堤防の平均堆積速度は1mm/yr程度と推定された.最近では,2001年8月22日の台風11号,同年9月10日の台風15号による降雨時に,アメダス観測地点(日光:標高1,292m)でそれぞれ358.0mm,475.0mmの日降水量を記録し,堤防_II_・_III_面への新たな堆積作用が確認された.堤防_III_面での堆積作用はほぼ毎年生じるが,堤防_II_面への堆積作用をもたらす規模の氾濫には,350mm程度の日降水量が必要と推察される.350mm以上の日降水量は1944_から_2002年に9回記録されており,数年_から_数十年に一度の頻度で氾濫が堤防_II_面に及ぶと考えられる.しかし,堤防_I_面,さらには後背湿地にあたる湿原への河川運搬物質の流入は,多くても数十年に一度しか生じないと考えられる.さらに,風成のFPの存在とその深度からも河道の変化は活発でないと推察され,河川氾濫が湿原に及ぼす影響は,区間_III_においてはそれほど大きくないといえる.今後,湯川の地形形成が湿原に及ぼす影響をより詳細に明らかにするためには,蛇行と河道の変化が激しい区間_II_の堆積プロセス,および区間_II__から__IV_の下刻作用と基準面の低下に伴う地下水の流出プロセスを検討する必要がある. 文 献尾方隆幸 2002.日光戦場ヶ原における移行帯の植生分布と地形・水文条件.日本地理学会発表要旨集 61: 218.

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