日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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滋賀県高島町における都市・農村交流事業に関する研究
*山本 佳世子
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p. 58

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抄録
1.研究の視点と目的田園地域においては,地場産業の衰退だけではなく,過疎化と高齢化が同時に進行することにより,経済的,社会的な活気が喪失される地域が多い。このような状況に対応するように,全国各地で様々な地域活性化,地域振興のための事業が展開されている。また近年では,インターネットを利用した地域の情報発信も活発に行われるようになり,紙メディアのみの時代よりも,他地域の地域情報を容易に入手することができるようになった。そして地域情報の発信を契機として,異なる特性を持つ地域の住民同士が交流するケースもみられるようになった。このような事例のうち本研究では,都市・農村交流事業により地域振興に取り組んでいる滋賀県高島町を事例として,文献調査及びヒアリング調査を行い,その特性について把握することを目的とする。2.高島町のまちづくり事業の特性高島町では,2001年3月に,まちづくりのテーマを「人と自然がふれあうパートナーシップのまち_から_未来チャレンジタウン高島」とした第4次総合計画(チャレンジ未来(ゆめ)プラン2010)が策定された。このことを契機として,特に地域に密着した自治会・区などの既存コミュニティ組織を対象とした様々な補助事業が推進されている。そして各種事業の概要は,「草の根まちづくり資料集」としてまとめられ,広く公布されている。 したがって高島町のまちづくり事業の大きな特徴は,都市地域とは異なり,地縁的,血縁的な既存のコミュニティ組織を基盤とした,「草の根」のまちづくりを目指す点にあるといえる。高島町における特に代表的な地域振興事業として,中心部の勝野地区の旧市街地で行われているアイルランドとの交流及び中心市街地活性化をテーマとしたものと,中山間部の畑地区及び鵜川地区の棚田地域での農業振興をテーマとしたものの2つが挙げられる。これらの2つの地域振興事業は,都市的要素やまちのにぎわいを演出したまちづくりと,農村的要素や農産物による村おこしであり,たいへん対照的な性格を持つものである。3.都市的要素と農村的要素の複合による地域振興さらに高島町では,棚田を舞台とした村おこしだけではなく,前章でも紹介した特色ある中心市街地及び商業地の活性化によるまちづくりも同時に行われている。そのため高島町のもつ都市的要素と農村的要素を最大限に生かし,2つの異なる要素を複合化した地域振興が展開されているといえる。たとえば,棚田地域を訪問した来訪者が農業体験に従事したり,農産物を購入したりした後に,中心地のアイリッシュビレッジに移動する。そして今度は,アイリッシュビレッジ内で食事をしたり,土産物を購入したり,城下町の風情が残るまちなみを散策することができる。このように都市と農村という2つの相反する要素を同時に生かし,既存のコミュニティ施設を基盤とした草の根的な地域振興の事例として,高島町での取り組みはたいへん貴重であるといえる。4.結論 _から_琵琶湖・淀川水系の上下流域の住民の交流の可能性を探る_から_前章で紹介した高島町を舞台としたまちづくりや都市・農村交流は,琵琶湖・淀川水系という地域においては,上流域及び中流域と下流域との交流という別の意味も同時に持っている。琵琶湖は近畿1,400万人の水源として,滋賀県内だけではなく,大阪府,京都府,兵庫県などの琵琶湖・淀川水系の中流域や下流域に水を供給し,生活や産業を支えている。しかしこれらの中流域から下流域にかけての地域の住民は,水源地である上流域がどのような地域であるのか実情をあまり認識していない人々の割合も多いのが現状である。そのため上流域から始まった都市・農村の交流事業により,上流域及び中流域の住民が上流域を訪問することから生じる二次的な効果として,琵琶湖・淀川水系の上下流域の各住民間の交流が実現し,相互の地域の実情を知り合うことが期待できる。今後は都市・農村の交流だけではなく,流域の農村,山村,漁村間の交流の可能性もあるのではないだろうか。
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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