日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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石垣島轟川流域における赤土流出の現状
*小原 利文瀬戸 真之島津 弘
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p. 70

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抄録
1 はじめに 南西諸島には強い雨の後に陸域から土壌が海へ流出して海水が赤濁する現象,いわゆる赤土流出がみられる.赤土流出は,マングローブ林やサンゴ礁の生態系へ深刻な影響を及ぼし,大きな問題となっている.赤土流出を防止するため,沖縄県では1976年に「沖縄県公害防止条例」を改正し,赤土の流出防止を義務づけた.1995年には「赤土等流出防止条例」を施行した.また,土木的対策や農地管理対策がとられているが,依然として農地からの土壌流出は続いている.そこで本報告では,サンゴ礁への赤土流出が現在でも大きな問題となっている石垣島の轟川流域において,土地利用と設置構造物,赤土流出の痕跡を調査し,赤土流出の経路を明らかにした.なお,本発表は2001年6月29日_から_7月3日にかけて石垣島で実施した立正大学地球環境科学部地理学科「セミナーおよびフィールドワークH(担当:島津 弘)」の一環として実施した現地調査に基づいて,その後の調査結果を加えたものである.  2 調査地の概要 調査を行った石垣島は沖縄本島の那覇から南西におよそ410kmに位置する.本報告では石垣島南東部の轟川河口から1_から_3.5km上流を調査地とした.轟川流域は台地と低地からなり,調査範囲は,その大半が低地である.土壌は国頭マージ,島尻マージが分布する.これらの土壌は赤色を呈し,一般に赤土と呼ばれている.轟川の河口に面する白保海域は全長約40kmの「石東リーフ」と呼ばれるサンゴ礁海域である.石垣島の年降水量は約2000mmである. 3 調査地域の土地利用と赤土流出の現状 本報告では耕作地からの赤土流出の経路を把握するため,調査地域内の土地利用,設置構造物の位置,土壌が道路へ流出した痕跡や道路を流下した痕跡を調査した.土地利用はサトウキビとその刈り取り後の裸地が大きな面積を占めるが,低地には水田もみられる.畑には側溝とマスが設置されている.マスには沈砂機能を持つものと持たないものがあり,内部には轟川へ接続された排水用パイプが埋め込まれている.調査時には,沈砂機能の有無にかかわらず,排水パイプの高さまで流出土壌が堆積していた.また,排水用パイプの内部にも土壌が流出した痕跡が認められた.また,側溝にも流出した土壌が堆積していた.畑から土壌が流出した痕跡は舗装された道路の路面に多く認められた.特にサトウキビ畑や刈り取り後の裸地に沿う道路では,畑から道路に土壌が直接流出した痕跡が認められた.一方,水田に沿う道路の路面にも流出跡は認められるものの,水田から土壌が道路に直接流出した痕跡は認められなかった.また,轟川にかかる橋の上にも流出した土壌が堆積していた.特に橋の取り付け部分には多く土壌が堆積しており,この部分から土壌が川へ流入した痕跡が認められた.橋には溜まった水を排水するための穴が開けられていることがあり,この部分から流出した土壌が川へ流れ込んでいる痕跡が認められた.5 赤土流出の現状とその経路  轟川流域における赤土流出の実態を明らかにするため,土地利用と赤土の流出経路を調査した.その結果,次のことが明らかになった.側溝や沈砂機能を持つマスは赤土流出の防止に効果が認められるもののメンテナンスが不十分なために,土壌流出を防ぐ機能が失われている.このため,一度側溝へ入った土壌が道路へ流出し,橋の取り付け部や橋に設置された排水用の穴から轟川へ流出する.橋は道路へ流出した土壌が最終的に河川へ流出する地点となっている. 以上から轟川流域における赤土流出防止対策としては,現在ある側溝やマスの堆積物を頻繁に除去すること,側溝やマスの大きさを拡張・増設すること,道路に流出した土壌をトラップすること,橋に土壌流出対策の施設を設置することが挙げられる.
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