日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
会議情報

鈴鹿川近傍における水文地質と地下水流動系に関する検討
*宮岡 邦任
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 81

詳細
抄録
 地域の地下水循環形態を明らかにするために,流動の場の内部構造を把握することは極めて重要である.帯水層を乗せている基盤上面の形状の解明は,過去における河川流路の分布など水循環の状況を把握できるとともに,地下水流動形態の実態解明や帯水層の層厚から地下水の賦存量の推定への重要な手掛かりとなる.本発表では,電気探査を用いて推定した基盤地形分布をはじめとした内部構造と地下水流動系との関係について検討した結果を示す. 研究対象地域は,三重県鈴鹿郡関町内に位置する鈴鹿川と加太川の合流点下流付近の鈴鹿川左岸に広がる小地形である.鈴鹿山脈の谷口部に位置しており,地形は従来河岸段丘地形であるといわれている.基盤地質は,上流部山地は主に二畳紀新期_から_白亜紀の花崗質岩類と花崗閃緑岩からなるのに対し,中流部は鮮新世奄芸層群で形成されている.古くは東海道の宿場の一つである関宿が置かれており,地域内には湧水や古井戸も複数箇所で確認できることから,以前は生活用水として地下水を利用した時代があったことが分かる.周辺では,近年大規模工業団地の開発が行われており,水源に鈴鹿川河川敷に掘削した井戸を使用していることから,今後の計画的な水資源利用を策定するためにも,地下水循環の実態解明が必要な地域である. まず地下水流動の場である地形および内部構造を明らかにするために,4極ウェンナー法による電気探査を27地点において実施した.基盤到達時の比抵抗値を確実に把握するために,既存の地質柱状図や電気探査の結果とのデータの比較を行うとともに,地域内において岩盤の露頭が確認できる地点でも電気探査を実施し,沖積堆積物から岩盤までの比抵抗値の変化について測定を行った. 測水調査は,民家井戸28地点,湧水6地点,温泉1地点について,電気伝導度,水温,pH,気温,地下水面までの深さ,井戸底までの深さを測定するとともに化学分析用に150mlの採水を行った.河川流量観測は,鈴鹿川・加太川および鈴鹿川に合流する支流を対象に計15地点において実施した.これらの河川流量観測点において,民家井戸と同様の測水調査をあわせて実施した.これらの測水および河川流量調査は地表水の地下水への涵養の影響が最も小さいと考えられる非灌漑期(2003年2月)に実施した.  電気探査の結果,基盤上面にはいくつかの谷が形成されていることが推定された.基盤深度は1_から_30mであり,それらの谷の分布傾向や,地表面の地形等高線の分布,地下水の流動形態などから,本研究地域の地形は鈴鹿川によって形成された小規模な扇状地であり,扇端部の一部にみられる比高10m程度の急崖は,鈴鹿川によって浸食された段丘崖あることが考えられた.この小規模扇状地において基盤の尾根が広く分布する地域では,地下水面も尾根状の分布を呈しており,本地域の地下水面の分布が地表面の形状よりは基盤上面の形状の影響を受けていることが考えられた. 湧水は基盤の谷に沿って分布しており,主要溶存イオン濃度からみた水質組成では,湧水や井戸の分布する標高によって,組成が異なることが分かった.これらのことは,本地域の地下水が基盤の谷を水みちとして流動していること,起源の異なる地下水流動系が存在していることをしていることを示すものである. 以上のことから,本地域における地下水流動系は基盤上面の形状に強く規制されていることが明らかとなった.
著者関連情報
© 2004 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top