抄録
1. はじめに
扇状地の集水域面積(Ad)と扇面面積(Af)については,
Af=cAdn (1)
という関係が古くから指摘されてきた.日本においては,主に掃流による砂礫を起源とする扇状地を対象とした研究がおこなわれており,集水域の面積増大に伴う起伏と侵食速度の加速的減少が,cおよびnの値を規定することがわかっている(Oguchi and Ohmori, 1994).
一方,山麓の沖積面や段丘面などの平坦面上には,小規模な扇状地が形成されることが多く,これら小規模な扇状地は,土石流により形成される割合が大きい.こうした小規模な扇状地は,従来の統計的な扇状地研究においては外されることが多く,その集水域と扇状地との関係は不明な点が多い.
そこで本研究では,主に土石流によって形成される小規模な扇状地について,集水域の地形が扇面の発達に与える影響を検討した.
2. 調査地域・方法
小規模な扇状地が連続的に発達する地域として,北海道稚内市西側の半島(以下稚内半島と称する)と岐阜県南西部,養老山地北東山麓を調査地域とした(Fig.1,2).
稚内半島は全域にstage1,5e,7,9の海成段丘が分布し,Stage1の海成段丘上に小規模扇状地が連続して発達している.
養老山地は,その東側に急峻な断層崖をもつ傾動地塊であり,三角末端面下には各谷から流れ出た土砂が堆積し,多数の扇状地を形成している.
両地域において,Af,Ad および集水域の起伏を表す起伏比(R)や集水域の平均基準高度分散量(D)を計測し,集水域の地形量が扇状地にどのように関わっているかを調べた.
3. 結果・考察
上述の式(1)において,稚内はn=0.92,養老はn=0.85であり(Fig.3),日本の平均値n=0.4(Oguchi and Ohmori, 1994)より大幅にnの値が大きくなった.本調査地域においては,Adの大小にかかわらず,RやDがほぼ一定であることが確かめられた.つまり,集水域面積の増加に伴って土砂生産量もほぼ比例して増え,それに応じた扇面が形成されていることがわかった.
次に,各集水域から供給される土砂量(Q)を,Dを用い
Q=5.0×10-4D3.2×Ad (2)
によって推定した.ここで,5.0×10-4D3.2は,Ohmori(1978)による平均削剥速度の推定式である.QとAfとの関係は両地域とも概ね一本の直線上にのってくることから(Fig.4),扇面はそれぞれの地域の土砂供給量に見合うように発達していることが明らかとなった.また,稚内は約50万年前より0.3mm~0.4mm/yの速度で隆起してきたのに対し,養老は100万年以上前から稚内と同等かそれ以上の速度で隆起しており,これが両者の土砂供給量の違いをもたらしていると考察された.
引用文献
Oguchi, T. and Ohmori, H. (1994):Z. Geomorph. N. F, 38, 405-420.
Ohmori, H. (1978):Bull. Dept. Geogr. Univ. Tokyo, 10, 31-85
