日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S207
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日本における中国人旅行者の行動空間特性
*金 玉実呉羽 正昭
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抄録

1.研究の背景と目的
 中国では,1978年の改革開放以来,社会,経済,政治制度,ライフスタイルなどに急激な変化が生じており,アウトバウンド旅行マーケットも急激に成長している.一方,国際観光収支で赤字が続いている日本では,インバウンド観光の促進事業が21世紀にようやく始まったところである.「観光立国」実現のために立ち上げたVJCで注目する対象の一つとして,急成長する近隣マーケットである中国人観光客誘致への期待感が高まっている.インバウンド観光振興をめぐるこうした日本の積極的な受け入れ態勢,訪日旅行の中国全土に向けての解禁(2005年7月),中国人富裕層の増加などに基づいて,今後中国人訪日観光客数は加速度的に拡大すると考えられる.
 本研究では中国人による観光行動の空間的な特性に注目し,中国におけるアウトバウンド観光の時空間プロセスと中国人訪日観光の展開を踏まえ,日本における中国人観光客の行動空間の特性を明らかにすることを目的にする.
2.訪日中国人観光客の行動空間
 本研究の分析資料は,国家観光局によって100位までランキングされた国際旅行社のうち,日本への観光商品を開発・販売する50社の訪日観光商品(2005年2月から4月の間)である.データは全体で205件に達したが,費用,スケジュールおよび訪問地情報が詳細に得られた189のツアーを分析に用いた.
 まず,中国人ツアーによる訪問地域をみると,沖縄から北海道まで広い範囲に分布していることがわかる.しかし,訪問地域には集中がみられ,とくに大都市やその近隣地域への集中が顕著である.一方,東北地方や中国地方の日本海沿岸,中央日本の内陸部では訪問地が少ない.
 ツアーごとに,こうした大都市への集中傾向を検討すると,189ツアーのうち東京および大阪の両大都市を訪問するものは,125である.東京と大阪が訪問ツアーの2大ノードとなり,横浜,箱根,京都などが,そのノードを取り巻く訪問空間を構成している.また,2大都市の中間に位置する名古屋は,副次的なノードと位置づけられる.
3.考察
 ここでは,中国人観光客による訪日観光でみられる行動の空間的特徴を,韓国と台湾からの訪日観光客の観光行動と比較した.具体的には,既存の資料と韓国・台湾における大手旅行社によるツアー商品に関する分析,さらに訪日観光旅行中の旅行者に対する聞き取り調査を行った.
 その結果,次の差異が明らかになった.第1に,訪日目的では,韓国人と台湾人訪日旅行者のほとんどが観光目的であるが,中国人訪日旅行者の場合には,観光目的がわずか3割しかない.第2に,旅行期間の長さである.韓国人ツアーでは3泊4日,台湾人ツアーでは4泊5日が最も多いが,中国人訪日ツアーで最も多いものは5泊6日である.第3に,韓国人と台湾人ツアーの場合,訪問地が多様であるが,中国人ツアーによる訪問地は大都市圏に集中する傾向がある.第4に,訪問地の類型に着目すると,台湾・韓国人ツアーによる訪問地類型の構成は中国に比べて均等である.これは,観光ニーズの多様化傾向を反映したものであろう.つまり,中国人ツアーの場合,大都市への特化が特徴であり,その他の地域を訪問する機会は著しく少ない.最後に,訪日観光商品の内容をみると,台湾・韓国人ツアーでは,ある特定の地域やテーマを中心とする観光行動が中心である.一方,中国人ツアーにはまだ多くの観光地訪問と多くの観光内容が含まれ,さらに,タイトな日程が観光行動の特徴となっている.
4.結論
 中国人によるアウトバウンド観光は,中国の経済発展や旅行の制約の緩和によって,急成長に向かい,その旅行空間は急速に広まっている.日本における中国人の観光行動は,東京・大阪大都市圏を中心に,複数の大都市での買物や名所見物が主体となっている.さらに,大都市近郊の温泉や,火山,景勝地などの観光地を周遊するパターンを示している.すなわち,旅行日程が長く,大都市を中心に数多くの観光地を回り,多様な内容を一度に経験し,日本での象徴的なものを大量に購入するのである.これは,中国人の訪日観光には依然として制限が存在し,その結果として一回の旅行で多様なものが求められているためであろう.現段階の中国人訪日観光行動空間は都市周遊型として特徴付けられるが,今後は中国人訪日観光に存在する種々の規制の緩和,日本への訪問回数の増加などによって,この特徴は変わると思われる.
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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