抄録
1 はじめに
日本全体が人口減少社会に突入しようとしている今日,大都市圏においては地価の下落や容積率の緩和などが引き金となり,マンションや住宅の建設が相次いでいる。その結果,空き家問題が発生し,大都市圏を対象とした空き家に関する調査・研究は進展している。これに対して,中山間地域でも人口の社会移動や自然減少により,数多くの空き家が発生しているが,過疎・高齢化に歯止めがかかるきざしがない中,中山間地域においてはもはや空き家が発生すること自体は避けられないだろう。しかし,問題は空き家が粗放的に管理されていたり,放置され続けたりすることにより,最終的には朽ち果てていく例が多く,再生の可能性が低い点にある。中山間地域において空き家はいわば「負の遺産」として象徴的な存在となっている。
これに対して,都市居住者による中山間地域への移住希望者は少なからず存在しているが,移住が実現しない例が多い。その理由の1つとしてIターン者に提供できる住宅が少ないことが挙げられる。前述したように,中山間地域では空き家の大量発生が問題となっている一方で,居住を希望するIターン者には住宅が供給されないミスマッチが生じている。
このような状況に対して,空き家の発生要因や空き家の利活用に関する研究は積極的に行われてきた。だが,そもそも中山間地域のどこに,どのくらいの空き家が存在しているのかといった基礎的研究は必ずしも十分に行われてこなかった。
そこで,本研究では島根県江津市中山間地域を事例に全数調査を行い,空き家の分布と発生要因について明らかにすることを試みた。調査方法は対象地域の全家屋を訪問し,空き家の場合には外見から空き家の状態をチェックした。また,連絡可能な空き家所有者に対して郵送式アンケート調査を行い,空き家として所有し続けている理由などについて質問した。
2 空き家の分布
調査の結果,対象地域に立地する4,079家屋のうち,774家屋(19.0%)が空き家であることが判明した。5軒に1軒が空き家であり,空き家率の高さは想像以上であった。
これらの空き家の分布状況を把握するために,地区単位で地域類型を行い,空き家率を算出した。その結果,山間部の空き家率は23.8%と最も高く,続いて海岸部が20.6%であった。その他の内陸部,河岸部はそれぞれ17.6%,17.0%であった。地域類型により差異があるものの大きな開きはなく,江津市の場合,全域にわたって空き家化が進んでいることが明らかになった。
3 空き家の状態
空き家と判明した家屋に対して,外見から空き家の状態を把握した。その結果,空き家を多少なりとも利用している様子がみられたのは約半数であり,残りの半数は空き家を放置していると判断された。これらの空き家の活用可能性として,約半数程度の空き家については若干の修理で居住が可能であると判断した。残りの半数については大がかりな修理が必要,もしくは,居住は不可能であると判断された家屋であった。
4 空き家所有者の所在地と空き家に対する意識
江津市の空き家所有者のうち連絡先を把握することができた82名に対してアンケート調査を行い,45名から有効回答が得られた。その結果,空き家所有者の所在地は県外においては関西圏,関東圏が多く,県内においては江津市内および浜田市が多いことが明らかになった。就職等により大都市圏への移住と,住居更新のための近隣地域への移動という2つの移動パターンが存在していることが判明した。
また,空き家化した理由としては居住者の転出が23.4%であったのに対して,居住者の死亡のためが68.1%と大半を占めていた。今後,これらの空き家を空き家のまま所有すると考える世帯が39.5%を占めており,空き家の流動化が進まない状況が明らかになった。
5 空き家の発生要因
以上のような調査の結果,空き家の発生要因は次のようにまとめられる。(1)居住者の流出や死去により居住者が不在化する,(2)域外に居住する空き家所有者が家財道具を置くなどの理由に,暫定的な所有を続けている,(3)空き家所有者の流動化に対する意識は低く,流動化への抵抗感が空き家を空き家として存続させ続けている。