抄録
1 はじめに
今後環境問題がますます多様化し広域化していくことが予想されることから,効果的な環境保全や管理は,陸域から流域,海域を統括した一連の物質循環系の中で捉えていくという視点が求められる(星加,2003)。そのような研究のためには,流量や水質などのデータが即座に利用できる環境,すなわちデータベースの構築が効果的である(小寺ほか,2000)。これまでの日本地理学会の発表では主に本州,四国,九州を対象にしてきたが今回は,瀬戸内海に注ぐ一級河川である芦田川流域を対象に公共データ及び現地水文観測のデータベース構築を試みた。
2 対象地域概要
芦田川は,広島県三原市大和町に源を発し,途中で御調川等の支流を合わせ府中市に流れ,瀬戸内海へと注ぐ幹川流路延長86 km,流域面積860km2の一級河川である。中国山地南側を北西から南東に流下するため,その流路は断層構造によって直角に曲げられることが多く,屈曲が大きいことが特徴である。また,芦田川は広島県と岡山県にまたがる流域で,その下流域では鉄鋼業を中心とする重化学工業主体の産業都市として発展してきた。昭和56年に工業用水確保と洪水防止のため,河口部に国が芦田川河口堰を建設したが,ヘドロ堆積や赤潮の発生等の問題が生じている。
3 研究方法
芦田川流域における水環境の状況把握のため,基礎となる水系網図を50万分の1地方図,20万分の1地勢図,5万分の1地形図の異なるスケールの地図から水線記号を抽出して作成した。それと合わせて50mメッシュDEMより落水線を作成し小流域界を作成し,水系網解析によって算出した物理特性値を付与した。さらに,作成した小流域をベースに表層地質,地形分類,土壌,植生等の自然環境,土地利用,人口分布等人為環境を流域特性値として属性データに入力した。河川の流量,水質等のデータは実観測の他に,環境省水環境総合情報サイトの公共用水域水質調査データ,国土交通省水文水質データベースより入手した月例調査およびテレメータによる連続観測の値を使用し,小流域の特性と流出する観測値を比較することで流域ごと,あるいは地域ごとの問題の抽出を試みた。
4 結果・考察
芦田川流域では,流域内に大都市福山市を抱えることや,上中流域に残る農地の影響から栄養塩類の流出が減少傾向にあるものの,絶対量としては未だ大きい。閉鎖性水域である瀬戸内海に注ぐ河川の負荷量を観測,あるいは算定することは海域も含めた水環境保全の観点からは必要である。今後はテレメータ観測を利用した大雨出水時の栄養塩類の流出形態を把握することが重要である。
参考文献
星加章(2003):陸域・流域を意識した瀬戸内海の環境,陸水学雑誌,64,pp219-224.
澤野美沙・小野寺真一・吉岡藍子・萱原宏昭(2007):芦田川流域の水環境に関するデータベース化,公開シンポジウム「芦田川流域―福山海域の水環境」資料,pp36.