抄録
地震による建物被災の有無・程度には,建物の堅牢度とともに土地条件(地盤条件)が重要であることは,多くの既存研究が指摘するところである。しかし,近年日本の都市圏の丘陵地等に拡大する地形改変地(多くは住宅地)の土地条件に関する研究は少ない。釜井氏らの研究グループは,谷埋め盛土(全体)の滑動・崩落発生の有無を統計的に判別するモデルを提示している。本発表は,発表者がよりミクロな視点で行ってきた,建物の被害程度と地形改変関連の土地条件との関係を統計的に分析した事例研究を,再解析結果を含めてまとめて提示し,これらを比較検討するものである。
対象として,釧路市の2地区,神戸市垂水区,福岡市東区の各1地区を取り上げた。それぞれ,1993年釧路沖地震,1995年兵庫県南部地震,2005年福岡県西方沖の地震により,地形改変地の建物(住家)が被災した事例である。地形改変前後の大縮尺地形図または改変前の空中写真から5mDEMを生成し(図1),これらから地形改変に関する土地条件指標群を導出して(図2),これらと建物被害との関連を,地図およびクロス集計とロジスティック回帰分析によって検討した。土地条件指標群として最終的に選択されたのは,切土・盛土・境界部(または切盛境界推定線からの距離),盛土厚,現傾斜,盛土下の原地形の傾斜,凸指標(25m半径平均標高との差)である。
釧路市緑ヶ岡地区の分析からは,盛土厚が厚いほど,盛土下傾斜が大きいほど,そして凸指標が大きいほどつまり崖上等であるほど,全半壊といった激しい建物被害が発生しやすいこと,また同市桜ヶ岡地区では,盛土下傾斜が大きいほど,同様に激しい建物被害が発生しやすいことがわかった。神戸市垂水区では,中程度以上の激しい建物被害が,切盛境界からの距離が近いほど,盛土厚が厚いほど発生しやすいことが明らかになった。福岡市東区においては,瓦屋根の被害のみに注目して,盛土厚が厚いほど,切盛境界からの距離が近いほど,現在の傾斜が大きいほど,瓦屋根が被災しやすいことを,統計的・定量的に明らかにした(表1)。
観測値と予測値との整合性をみると,各対象地区の被災率を分割値とした場合,全体として70%程度以上の的中率が得られた。建物の条件や地質条件等をまったく考慮することなく,地形改変および地形関連の指標のみでこれだけ判別可能ということは,地形とその改変が地震に対する土地条件としてきわめて重要であることを示したといえる。
一方,これらの事例分析結果間の差異の原因として,地盤破壊の様式やもとの地形や地質および建物の新旧との関連を指摘できるが,現段階では未解決である(表2)。建物や地質等を含む新たな変数を導入する等してこれらの差違や共通性への定量的説明の見通しがたてば,いまだ被災していない事例地域での被災予測も可能となると考える。