日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: S301
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ポーランドの山地集落にみる森林の持続的な利用と拡大家族
*中台 由佳里
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抄録
_I_ はじめに
 ポーランド カルパチア地域の山地集落では,零細な農牧業が主な生業であり,森林の自然資源を採集する複合的な生業によって生活維持を図っている。主な生業は単純再生産に近く,収穫量は気候の影響を大きく受ける。各世帯から一人以上は国内外への出稼ぎに出ているが,集落内に店舗はなく,生活の基盤はほぼ自給自足といえる。しかし豊富ではない自然資源を充分に活用するためには,他の要因が推定される。本発表では,森林の持続的な利用と拡大家族について焦点をあてる。
_II_ 調査集落と調査方法
 調査地域であるカルパチア地域の山地集落バランツォーバは,ポーランド南部マウォポルスカ州ザヴォヤ村にある,世帯数34の集落である。主に,3世代世帯を中心に拡大家族が加わった構成であり,人口は流動的である。
 集落の成立は,移牧民の季節的な作業小屋に始まり,移住時期にから成立時期は3期に分けることができる。定住はオーストリア・ハンガリーの管轄にあった19世紀半ばから始まり(第1期),人口圧による低地からの移住者が定住したと考えられる。集落の名の起こりはこの初期定住者の名に因むものであることが,発表者の2005年の全戸調査により判明している。
 調査方法は,2001~2006年に実施した聞き取り調査とポーランド語による全戸に直接手渡したアンケート調査,参与観察である。
_III_ 山地集落の持続的な生業構造
1)天然資源の利用
 冷涼な気候により耕作期間が短く,細分化された農耕地が点在するため,農牧業の収穫の大半は自家消費に充当される。生業における性差も若干見られ,男性による薪作りは夏季の重要な仕事である。1847年に締結された共有地使用令により,現在もその子孫たちはバビア・ゴラ国立公園内で許可を受けた場所で,無償による薪用の樹木の伐採権を保持している。樹木は,許可を与えるバビア・ゴラ国立公園事務所によって,伐採が管理されている。
 副食品として夏季には,木の実のジャム,ピクルス,乾燥キノコや,キノコの瓶詰め,ハーブティー作りが冬季保存食用の女性だけの作業である。採集してくる場所は共有地か数多い耕作地周辺であり,次年度のことを考慮して根絶しない使用を行っている。この保存食は,贈答品や労賃として現金代わりの役割も担う。
2)拡大家族間ネットワークの活用
 バランツォーバでは農業の機械化が遅れ,失業した拡大家族は自給自足に近い農牧業の労働力として受け入れられる。そのため,世帯人口は変動が大きい。最大の農牧業の担い手である農耕馬を拡大家族集団ごとに保有し,構成員が所有する耕地を交代で耕作し合う。労働力の見返りは昼食や保存食で,現金は支払われない。
 国内外への出稼ぎも世帯に一人以上の頻度でみられるが,出稼ぎに出る際の情報や若者の配偶者の紹介もこの拡大家族間で頻繁に行われる。冬季の休耕期は拡大家族間の結束を強化する時期であり,保存食を持っての行き来が活発に行われている。また最近では急激に減少しているが,1世代前までは樹木から家屋や家具,食器に至るまで,拡大家族ごとに作成されていた。
_IV_ おわりに
 公的援助が期待できず,市場経済から離れた地域では,零細で不安定な農牧業を補うために,天然資源を積極的に利用している。その上で,拡大家族間のネットワークを用い,相互扶助により,畑作労働の確保から保存食の交換に至るまで,無駄の少ない生活維持を継続している。森林の副産物としての天然資源の持続的な利用を可能にしている要因を考察するには,利用方法だけではなく,活用している住民間の繋がりに焦点をあてる必要があるといえる。
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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