抄録
1.はじめに
本報告の目的は、台湾のコメ流通における精米業者の役割について明らかにし、精米業者が台湾のコメ生産と小売状況にどのような影響を及ぼしているのかついても明らかにする。
そのため本報告では、台湾の精米業者であるA社の事例を中心として、生産者や小売店との具体的な取引関係を分析する。
2.台湾稲作の概況
まず、台湾稲作の概況を見ると、全体的に減少傾向にあり、2000年には約190万トンであった生産量は、2007年には約130万トンとなっている。こうした減少傾向の中で、耕種農業全体の生産額に占めるコメの生産額の割合も減少しているが、現在でも全体の17%を占めており、台湾農業の中心的作物である。
台湾で生産されているコメは、その80%以上がジャポニカ種である。また、行政院農業委員会へのインタビューによるとコメの収穫面積の約10%で契約栽培が行われており、台稉9号や高雄139号などの高級品種が栽培されている
このように生産されたコメの80%以上は、生産者から民間の精米業者に販売され、その後卸業者や小売店などへ流通する。このため民間の精米業者がコメ流通の中心であるといえる。次に、民間の精米業者による小売店や生産者との取引について分析してみよう。
3.精米業者A社の販売・集荷行動
本報告で対象とするA社は、1987年に設立され、年間約10万トンのコメを扱っており、台湾で最も規模の大きい精米業者である。
まず、A社と小売店の取引について見ると、A社は小売店で自社のコメを販売してもらう場合、「取扱料」を一商品毎に小売店に払うこととなっており、そのためA社は「取扱料」を早期に回収することが可能な、消費者に受け入れられやすい価格の品種から小売店で販売する。このような品種は、他の小売店の販売実績などによって決定され、現在では、台農11号という多収量品種となっている。小売店で販売する品種については、小売店からの要望などはほとんどなく、A社が決定することができ、売れ残りが生じた場合には、小売店はA社にその分を返却することができる。
以上のような、小売状況を受けて、A社では一期作の前の12月~1月と二期作の前の5月~6月に、生産者に対してA社が生産者から買い取る品種、量、価格などの条件をアナウンスしておく。生産者は、各精米業者などからの買い取り条件を比較し、生産する品種や量を決定する。また、台稉9号や高雄139号などの高級品種については、契約栽培が行われており、買い取り価格は多収量品種と比較して、10%程度高く設定されている。
現在のA社の買い取り状況は、買い取り量の70%が台農11号や台農67号を中心とした多収量品種であり、30%が台稉9号、高雄139号、高雄145号などの高級品種となっている。
4.結論
本報告では、台湾のコメ市場において精米業者が、コメの集荷・販売の中心であり、そのような機能を背景として、小売段階と生産段階に対して重要な役割を担っていることを明らかにした。しかし、本報告では精米業者に次いで集荷・販売を行っている政府の役割については分析していないので、今後の課題としたい。