抄録
1.はじめに
1990年代前半に、ペットボトル入り緑茶(以下、緑茶飲料とする。)が登場し、1990年代後半から緑茶飲料需要が急増したことにより、日本の緑茶産業の構造は大きく変化している。日本の緑茶産業の構造は、スーパーまたは緑茶飲料メーカーなどへの販売を主とする大手製茶企業と、茶専門小売店への販売を主とする中小規模製茶企業に分けられるが、緑茶飲料需要の増加により、大手製茶企業への集約化、中小規模製茶企業の淘汰が進んでいる。
また、緑茶飲料の需要増加は、煎茶需要の減少を引き起こし、煎茶需要で経営が確保されていた山間部などの生産や販売を脅かしている。したがって、煎茶需要確保のための新規販売先の創出が課題となっている。そこで近年、新規販売先の創出として、海外への日本産緑茶輸出が行われている。日本産緑茶輸出量は年々増加し、輸出相手先国の範囲も拡大しており、海外における日本産緑茶の需要が高まっている。
本研究では、緑茶輸出を行っている中小規模製茶企業T社とA社に対してヒアリング調査を行い、海外における日本産緑茶需要増加への対応について明らかにする。
2.T社の海外需要への対応
T社は10年ほど前からアジア方面への輸出を開始し、2年前にアメリカのニューヨークに直営店を設け緑茶販売を行っている。アジア諸国向けとアメリカ向け輸出の方法は異なっており、アジア諸国へは輸出商社を通して行っているため、利益率は少ない。そのため、下級緑茶をアメリカ向けの輸出量より多く輸出している。アメリカ向けには、上述した直営店にだけ輸出しており、富裕層向けに高級茶を販売している。そのため、利益率はアジア諸国向け輸出に比べて高い。T社は今後、アメリカでの販路拡大を考えている。しかし、現状よりも日本茶需要が増加した場合、供給が追い付かないと考えられるため、原料確保が課題となっている。
3.A社の海外需要への対応
A社は抹茶と煎茶の生産・加工・輸出を行っており、10年ほど前から主に抹茶をアメリカへ輸出している。さらに煎茶の輸出を行うために、2003年に中国へ進出し抹茶と煎茶の生産を行っている。A社が70%、中国の茶業公司が30%出資し、合弁会社B社を設立した。B社は生産量の80%を中国国内へ流通させ、20%を日本に輸出している。日本に輸出された荒茶は、仕上げ茶に精製され、ドイツやアメリカに輸出され、日本では流通させていない。A社の中国進出の目的は、生産コストの削減と、海外における日本茶需要増加のための原料確保である。しかし、中国での生産・加工体制が欧米諸国のユーザーの要求を必ずしも満足させるものではないため、上述したように日本での仕上げ茶加工が必要な状況となっている。
4.まとめ
事例としてあげたT社とA社は、日本産緑茶需要増加に対応するために海外進出し事業を展開していた。しかしT社は今後の原料確保が課題となっており、A社は原料確保のため中国に進出したが、現地での最終加工体制が確立されていないため、日本を経由して輸出せざるを得ない状況となっている。両社のこうした課題は、日本産緑茶の原料確保が困難な状況にあることを示している。煎茶需要の新規創出として進められている日本産緑茶輸出であるが、実際には産地と製茶企業の動向が一致していない。こうした産地と製茶企業の動向については、次の課題としたい。