日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P0930
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中国内モンゴルにおける環境政策と土地利用変化
*梁 海山若林 芳樹
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抄録
【はじめに】 改革開放後の中国の急速な経済発展に伴い,内モンゴル地域も大きな変貌を遂げつつある.その背景には,農村地域での都市的土地利用への大量転用,農村人口の都市への流出という都市化の波が押し寄せたためである.政府は,食糧不足や経済の持続的な発展を支えていくために,内モンゴルなど内陸の牧畜地域に「草原開墾」,「定住化」などの政策を実施してきた.しかし,内モンゴルの大草原地帯では,人口増加にともなう農耕地の拡大や薪材の採取,家畜の過放牧などが原因で砂漠化を初めとする環境劣化が進行した.そこで,2000年頃から沙漠化防止,環境保全を目的とした「放牧禁止」「生態移民」などさまざまな制度・政策が導入されてきた. こうした内モンゴルにおける改革開放後の変化については,主に環境政策と農牧業,土地被覆・土地利用への影響や衛星画像を用いた砂漠化の実態把握などに関する研究が蓄積されている.しかしながら,それらの研究は内モンゴルの一部の地域について2000年以前の状態をローカルに捉えたものであり,近年の政策転換後の変化の地域的差異について検討した例はまだみられない.そこで本研究は,内モンゴルにおいて環境政策が本格化した2000年代以降を対象にして,土地利用変化からみた環境政策と都市化の地域的動向を明らかにすることを目的とする. 【研究方法とデータ】 本研究では,旗・県単位での環境変化を表す土地被覆・土地利用データとして,内モンゴル土地勘測院の「土地利用現状調査統計データ」を採用した.このデータは,リモートセンシングに基づいて土地利用について52種類に分類した結果を89の旗・県ごとに集計したもので,本研究ではそれを9種類に分類し直したデータを使用する.また,変化の背景を知る手がかりとして,必要に応じて「内モンゴル統計年鑑」の社会経済データを参照した. まず土地利用の分布傾向を把握するために,2000年と2005年における単位地区ごとの土地利用構成に対して修正ウィーバー法を適用し,代表的土地利用の組み合わせを抽出した.ただし,この方法では構成比の小さい土地利用項目の変化を捉えきれないため,各年次の土地利用構成比の差を表すデータ行列に因子分析を適用した.得られた因子が表す代表的な変化パターンの分布傾向を明らかにするために,因子得点にクラスター分析を適用し,土地利用変化パターンからみた地域の類型化を行った. 【結果】 卓越する土地利用の組み合わせからみた内モンゴルの土地利用類型は,草原が卓越するモンゴル国境地帯,東部から南部に広がる半農半牧地域,東北部の森林地域,および黄河流域と一部の鉱工業都市に局地的に現れる都市化地域に大別され,2000年以降も大きな変化はみられない. しかし2000年から2005年にかけての土地利用変化パターンを因子分析によって要約すると,異なる変化傾向を表す4つの因子が抽出された.それらの因子は,都市化,耕地の増加と森林の減少,灌漑による農地の拡大,土地の劣化・荒廃によって特徴づけられる. 得られた因子得点にクラスター分析を適用して,内モンゴルにおける土地利用変化の類型化を行ったところ,都市化地域,変化の小さい地域,退耕還林還草地域,土地劣化地域の4つに分類された.都市化地域は,フフホト,パオトウ,シリンホトなど地級都市や県級市を含む地域で,都市用地や交通用地の面積が増加し,耕地面積が減少している.変化が小さい地域は,放牧禁止政策により牧畜飼育地として開墾された,北部や東北の牧畜地域が多く含まれる.退耕還林還草地域は,南部の半農半牧地域に分布し,灌漑できない畑が林地や草地に転換されている.土地劣化地域は,黄河流域周辺の地域,烏蘭布和砂漠とクブチ砂漠の周辺地域に分布し,多くが窪地,砂漠,アルカリ地で占められている.そこでは,近年の降水減少に伴って地下水灌漑を行う農業が増加した結果,アルカリ地の面積が大幅に増加している. 【考察】 1990年代末までの農村地域の変革制度・政策は,農牧民の生活向上を目的とした農業・牧畜業の改革であったが,農牧地域の経済構造を大きく変革するものではなく,むしろ牧草地の劣化,沙漠化などの環境変化を深刻化したといわれている.これに対して,2000年以降の環境政策は,砂漠化や土地の劣化を防止する環境保全の目的で行われており,2005年までの土地利用変化にその効果の一端が現れている. 一方,この間の内モンゴルでは,資源開発と工業化に伴う都市化が急速かつ本格的に進行した.その結果,既存の都市域の拡大や新しい都市の誕生とともに,広大な農牧地域に散在する鎮と区の拡大が著しくなり,中核都市とその周辺での都市化が進行した.本研究での分析結果には,こうした開発の結果と最近の環境政策が反映されている.
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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