抄録
1990年代半ば以降のNOx・PM法の改正や大都市圏での条例による排ガス規制などにより,近年ではSPM(Suspended Particulate Matter, 浮遊粒子状物質)濃度の低下が指摘されるようになった.その一方で,測定されるSPM濃度は,自然起源の粒子や他物質からの二次生成など,多様な要因が反映されたものであり,大規模な黄砂イベント時には広い範囲で常監局のSPM濃度に影響することも報告されている.
本研究では,時間的にも空間的にも様々なスケールで濃度が変動するSPMを対象に,主成分分析を用いて時空間変動の特性を明らかにすることを目的とし,特に濃度の長期変化の地域性と季節変化について検討する.
国立環境研究所提供の月間値データファイルから,全都道府県の一般局でのSPM濃度月平均値を用い,1991~2006年度を対象に,主成分分析を行なった.
その結果,全体の6割を占める第1主成分(寄与率62.2%)は,国内の広い範囲で同符号となり,主成分スコアからは濃度の季節変化を示すと考えられた.また第2主成分(寄与率9.2%)は,首都圏・京阪神など大都市域で固有ベクトルの値が高く,そのスコアの変動は,それらの地域の濃度の長期低下傾向と一致した.したがって,対象期間の16カ年における国内のSPM濃度には,季節変動が大きく現れ,次いで大都市域での濃度低下傾向が反映されることが示唆された.