_I_.はじめに
2008年元旦以降,埼玉県熊谷市街地のデパート(地上高約32m)と郊外の大学学生寮(地上高約47m)の屋上と地上,計4箇所に自然通風式自記温度計HOBOを接置して5分間隔連続観測を継続している.2.5年を超えるデータの蓄積が進み,都市ヒートアイランド強度(市街地-郊外地上気温差)および郊外接地逆転強度(屋上-地上気温差)の年変化や年々変動について考察が可能になってきたので,その結果の概要を報告する.
_II_. 都市ヒートアイランド強度および郊外接地逆転強度の変動
図1(省略)に2.5年間の都市ヒートアイランド強度(左)と郊外接地逆転強度(右)のアイソプレスを並べて示す.縦軸は日付,横軸は1日の時間である.両図とも正領域のみ灰色表示されており,暗い部分ほど大きな強度を示す.2008年の長期欠測中の市街地地上気温は,熊谷地方気象台1時間測定値で代替した.
図1(省略)を概観するだけでヒートアイランド強度と郊外接地逆転強度の間の対応関係が示唆される.寒候季には,日中と夜間ともに明瞭なヒートアイランドが形成される一方,日出・日没直後にはヒートアイランドが消滅するか著しく弱くなるのに対して,暖候季には,日没を挟んで午後~夕刻に明瞭なヒートアイランドが形成され日出後午前中はヒートアイランドが著しく弱体化することが多い.寒候季型→暖候季型への切換りは,2008年度は長期欠測中の4月~5月の間としか言い様がないが,2009年,および2010年は4月に生じていることが読み取れるとともに,暖候季型→寒候季型への移行は,2008年,および2009年ともに10月初旬と読み取れるので,偶然ではない規則的な年変化である可能性がある.
_III_. 夜間都市ヒートアイランド強度と郊外接地逆転強度の関係
全有効データから,前24時間無降水で市街地温度勾配が-0.5℃/100m~-1.5℃/100mで都市混合層が形成されているとみなせる午後8時~翌朝4時の1019正時のデータを抽出して,郊外接地逆転強度αrと夜間都市ヒートアイランド強度δTu-rの散布図を作成した(図2,省略).風向が南東~南西の場合(n=185)とそれ以外の風向の場合(n=834)の回帰式は,それぞれ,
δTu-r=0.3465αr+0.5824 R2=67.91% ……式(1)
δTu-r=0.3815αr+0.5230 R2=77.80% ……式(2)
となり,ほぼ同一の式である.δTu-r/(αr-αu) によりクロスオーバー高度を見積ったところ(図3,省略),郊外接地逆転が発達した夜はほぼ一定の値をとる傾向がうかがえる.
_IV_. 終わりに
観測は現在も継続中であり,当日は更にデータを追加して解析し,風速や季節・時間依存性に関して検討した結果も報告する予定である.
謝辞:観測場所をご提供頂いている八木橋デパート,千形神社社務所,立正大学学生生活課,および観測を継続遂行された立正大学学生の石塚仁志・鈴木悠規・角田優美・田澤一起4氏に対し,心よりの謝意を表します.