抄録
1.研究の背景と目的
沖縄県は,大都市圏外では例外的に多くの保育所待機児童を抱えているが,その背景には高い出生率や共働き世帯の多さ以外に,いわゆる「5歳児保育問題」がある.これは,子どもが5歳になると公立小学校に併設された幼稚園で過ごすという米国統治時代から続く慣習に由来し,現在でも5歳児の幼稚園就園率は8割を超える.その結果,母親が就業する家庭の園児の多くは,降園後の居場所の確保という問題に直面するが,小学校低学年の児童も同様の問題を抱えている.沖縄では,こうした児童の受け皿の一部を認可外保育所や学童保育が担ってきた.本研究では,このうち学童保育に焦点を当てながら,その利用者の保育サービス利用実態を通して,保育体制の課題を明らかにする.
2.研究の方法
対象地域は,那覇市に隣接するベッドタウンで,子育て世帯の流入によって保育施設が慢性的に不足している浦添市である.まず,浦添市役所保育課と浦添市学童保育連絡協議会から市内の学童保育の概況について資料収集を行った.その上で,市内18カ所の学童クラブを通して,2010年1月~2月に利用者の母親を対象として調査票を配布し回収した.276人から得た回答のうち,不完全な回答を除いた244人分を分析に使用した.また,アンケート回答者の中から協力者を募り,応募した10人に対して2010年2月と5月にインタビュー調査を実施した.
3.浦添市における保育サービスの利用実態
1) 学童クラブ利用者の特性
学童クラブを利用する母親の年齢は30代と40代が大半で,76%の世帯が2人以上の子どもをもち,未就学児の兄弟姉妹がいる世帯も42%ある.母親の職業については,予想に反してホワイトカラー職に就く割合が72%と高く,正規雇用率も48%に達する.これは,他県に比べて相対的に高い学童保育料を負担するには安定した家計が前提となることを示唆している.
その一方で,母子世帯が18%を占め,うち約1/4が祖父母と同居している.もともと沖縄では他県に比べてひとり親世帯の割合が高いが,これは浦添市がひとり親世帯に対して学童保育の保育料を半額補助していることが関係していると考えられる.
この他,通勤に自動車を利用する割合が87%にのぼることも特徴的である.これは,公共交通機関の利便性の悪さを反映しており,仕事と保育利用を両立するには自家用車利用が不可欠なことを意味している.
2)保育サービスの利用
学童保育以外の利用先については,習い事・塾が22%を占め,これらが小学生の放課後の居場所として保育に代わる役割を担っていることがわかる.そのほか,同居ないしは近隣の親族に預ける家庭も21%ある.とくに親が地元出身の場合,祖父母から送迎や保育の支援を受ける家庭が少なくないことは,インタビューでも確認された.
仕事と保育の両立に際して多くの家庭で直面するのが送迎の問題であるが,それを克服するには,近隣の親族などに頼る以外に,延長保育を利用する方法がある.市内の学童保育でも19時まで延長保育を行っているところが多く,29%の回答者がそれを利用している.家族類型別にみると,母子家庭の利用率が高く,41%に達する.また,母親の年齢が若く,未就学児をもつ世帯での利用率が高い.ただし,総じて利用頻度は多くなく,月1~2回や緊急時のみの利用が大半である.
保育サービスの選択理由を尋ねると,「家からの近さ」を挙げる人が92%と最も多い.それに次いで多いのが「評判」(58%)で,「保育理念」(36%)を挙げる人も少なくなく,保育の質も重視されている.この他に多いのが,「保育時間」(40%),「保育料」(35%)で,「兄弟姉妹で預けられること」を挙げる人も23%にのぼる.
4.5歳児保育問題に対する意識
沖縄県の保育体制を特徴付ける,前述の5歳児保育問題について,回答者の意識を自由回答によって尋ねたところ,肯定的意見,否定的意見,中間的意見(肯定と否定の両方),の3タイプの回答に分類された.肯定的意見の多くは,小学校との継続性や友達づくりなどの利点を挙げていた.これに対し,否定的意見では幼稚園降園後の保育をめぐる問題が多く指摘され,保育所や学童クラブとの二重保育や,幼稚園の預かり保育では弁当を用意する必要があることなどが挙げられた.全体の意見分布では,否定的意見が48%を占めるものの,肯定的意見も20%程度存在する.これら3つの意見を回答者の属性別に比較すると,年齢の若い母親や未就学児を抱える世帯で否定的意見が比較的多かったことから,世代や保育ニーズによって5歳児問題に対する認識は異なるといえる.