日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S1508
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不動産広告にみる横須賀の場所イメージ
*埴淵 知哉
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抄録

本研究では、不動産広告に表現される情報を材料として、軍港都市・横須賀の場所イメージの構造とその変遷を「住」の側面から明らかにする。広告内に表現される場所イメージは、特定の目的に沿って生産された選択性の高い情報と考えられるため、そこに含まれる「偏り」の中に、価値や評価の構造を読み取ることができる。そこで本研究では、場所イメージの生産者が、消費者に対してどのような情報を提示してきたのかを分析し、その中で軍港都市の諸要素がいかにかかわっていたのか、あるいはいなかったのかを検討する。不動産広告を収集する資料としては、『朝日新聞縮刷版』の朝刊を用い、1940~2009年の70年間を対象期間とした。季節性と曜日を考慮しながら、一定の基準に従ってサンプリング(抽出率約10%)をおこなったうえで、抽出した新聞記事の中から、横須賀市内に立地する物件の不動産広告を収集した。作業の結果、合計で150件の広告が資料として得られた。分析においては、まず、不動産広告における文字情報に着目し、場所イメージが言語的表現を通じてどのように書かれているのかを探った。具体的には、キーワードの出現頻度を集計し、場所イメージに関する内容分析をおこなった。その結果、横須賀市内に立地する住宅地の不動産広告からは、基本的に「軍港都市」と関連する場所イメージは、少なくとも直接的には抽出されなかった。出現頻度の高かった「海」「高台」「丘陵」といったキーワードは、横須賀が港湾都市として発展してきた地形条件を表現しているともいえるが、それはむしろ「景観・風景」「眺望・見晴らし」といった一般的に好ましいイメージに結び付けられており、抽象的な自然物として表現されていると考えられた。次に、広告内の視覚的表現として地図・図像データを取り上げ、軍港都市の各種施設や地物がどのように描かれるのか/描かれないのかに注目しながら、場所イメージの描かれ方を分析した。その結果、文字情報と同様に、地図・図像においても軍港都市の要素は基本的に描かれていなかった。例えば、イラストとして表現された海や港も、軍港としてではなく、レジャーを連想させるものとして描かれていた。このように、不動産広告において表現される横須賀の場所イメージには、軍港都市の要素はほとんどみられず、それは住宅地のイメージを商品化するうえで意図的に除外されていたものと推察される。

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