抄録
メキシコの義務教育期間である小中学校における地理教育の内容を、メキシコ公教育省が定めた教育課程と教科書からその特徴を明らかにした。地理の内容は統合科目の中で、小学校1,2年生において、児童の身の周りから近隣地域の範囲の地理事象を学習し,3年生において、児童が住む州の地理事象を学習する。独立科目「地理」は4~6年生で、週1.5時間学習する。4年生ではメキシコを5,6年生で世界を学ぶ。中学校では「メキシコと世界の地理」が中学校1年生に週5時間ある他,歴史地理の統合科目「州」において地理的内容を学習する。地学的内容は地理に含まれている。
「地理」の教科目標は,地理的能力として定義され,小学校では1)地理情報を処理する,2)多様な自然の価値を認める,3)多様な文化の価値を認める,4)社会経済的差異に対する意識を獲得する。5)空間の中での生き方を知る,と定義される。中学校での地理的能力は,1)地理的空間を知り,地図と地理情報を利用し,地理学習の大切さを知る。2)大地の動きと地球システムを理解し,持続的発展のための自然資源,生物多様性,環境保護を考える。3)人口の特徴を経済,社会,文化的にとらえ,人口の諸問題を考える。4)地球規模の経済空間を地理的に分析し,国家間とメキシコ国内の不平等について分析する。5)文化的多様性と文化遺産を尊重し,国際機関,国境,紛争,人類集団間の社会経済文化政治的意味について考える,と設定されている。
小中学校とも、位置、分布、多様性、時間性、関係という5つの地理的な見方と考え方があり、この中では、多様性というメキシコの多文化・民族・言語社会の国の独自性を反映しているが、地域性の概念は見られない。
メキシコの小中学校地理教育は,教科目標である地理的能力育成に焦点をあて,具体的には国内外の諸問題の認識や解決に向けた行動のための内容構成としている。それは学問としての系統地理学的を基礎とするが、網羅的ではなく,メキシコ各地や世界各地を対象とした地誌は含まれない。