抄録
2011年3月11日に発生した東日本大震災を起因とする東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故では、大量の放射性物質が大気中に放出され、福島県をはじめ関東地方など広い地域が汚染されてしまった。原子力発電所の事故が想定されておらず、土壌汚染をはじめ、水、食料などの汚染問題、低線量長期間被曝の問題など、混乱が続いている。<BR>とくに国・行政により発表される空間放射線量は、測定方法が住民生活と乖離することもあり、信頼されているとは言い難いのが現状である。そうした中、発表者らが地域活性化の活動として交流のあるいわき市川前町高部地区において、全戸の放射線量を測定する機会を得た。測定は堀場製作所PA-1000(γ線測定)でおこなった。あわせて住民生活に与える影響についてヒアリング調査を実施した。その成果の報告をおこなう。<BR>高部地区は福島第一原発から南西方向約32kmにある。いわき市の中では比較的放射線量が高い地域とされる川前町の中央部にある。集会所付近での地上1mの放射線量は約0.5μSv/h、それより北側(原発より30kmに近づく)では高めの値が観測された。<BR>住民の多くは日常的に屋外で過ごす時間が長いため、文部科学省が示す被曝量算定基準への不安を示している。また、個人でガイガーカウンターを借りて測定し、一時避難を決めた住民もいた。その一方で、山での作業に従事している住民からは「気にしても仕方が無い」といった声も聞かれた。<BR>各戸での測定は、日常空間での放射線量が明確になることから好評であった。また日常の行動範囲(家の周囲、畑、飲み水など)の測定を求められることも多かった。日常空間の放射線量を気にしつつも、ある程度割り切ってしまっている住民の姿が明らかになった。<BR>今年度も、学生を交えての集落活性化支援活動を継続している。福島第一原発事故の影響は、この活動にも大きな影響を与えた。学生の行動範囲の制限をするなど、学生の被曝量を抑えながら活動ができるよう模索をしている。