抄録
本研究の目的は,限界化が指摘される日本の山村において,非限界性を示す山村を見出し,その存立基盤を明らかにすることにある。そこで山村振興法の指定を受けている振興山村地域の内,自治体全域が振興山村地域となっている507の全部山村を対象として,1985年から2005年までの人口増減率,2005年における若年齢者率によって類型を見出し,類型毎の特性と地域的分布の特性を分析した。全部山村の類型は、人口増減率と若年齢者割合の間には弱い相関(0.52)がみられ、概して人口が増加しているか、減少率の低い全部山村は若年齢者割合が高い傾向のあることがわかり,1985年から2005年までの20年間における人口増減率と2005年における若年齢者割合(20歳から39歳までの人口が地域人口に占める割合)をクロスさせることによって析出した。その結果,7つの類型が析出された。類型Ⅰは人口増減率と若年齢者率が共に中央値を上回っている全部山村で,人口増減率、若年齢者率に幅があるため、Ⅰ-1、Ⅰ-2、Ⅰ-3の3区分とした。類型Ⅲは、人口増減率と若年齢者率が共に中央値を下回って人口減少が進み、高齢化が進んでいる全部山村であり、深刻度を知るためにⅢ-1、Ⅲ-2の2区分とした。そして類型Ⅱは、人口減少は中央値を上回って進んでいるものの、若年齢者率が中央値を上回り、類型Ⅳは、人口増減率は中央値を上回っているものの、若年齢者割合が中央値を下回って高齢化が進んでいる全部山村である。類型Ⅱ、類型Ⅳは、山村の中でも、やや異なる動きを持つ山村であるということができる。本分析よって類型Ⅰ-1に該当する最も非限界性を持つと考えられる山村は,若年齢者比率順にみると北海道占冠村,長野県安曇村,北海道赤井川村,愛知県藤岡町,福島県西郷村,長野県川上村,北海道浦河町,福島県檜枝岐村,北海道別海町,同新冠村,神奈川県清川村,山梨県鳴沢村,岐阜県宮村,群馬県高山村,石川県河内村,長野県高山村,同平谷村などの21の山村であった。これらの山村を産業別就業人口や個人所得などを加味して,地誌的分析を行うと,都市への通勤圏域に位置している地域であることや観光・リゾート地域であること,特定の農産物の生産,酪農に特化した農業地域であることなどで共通している。