抄録
1.問題の所在 山村における農業は,元来自給的性格が強く,複合経営を特徴とする地域が多かった.しかし,「中山間地域問題」に象徴されるように,生産の効率性が求められる市場競争に包摂される過程で「条件不利性」が顕現し,今日の山村農業を取り巻く環境は厳しさを増している.山村農業に対する政策が,「中山間地域等直接支払制度」へ集約化する(宮地,2011)一方で,一部の地域では異業種が農業分野に参入し,新たな農業の展開がみられる(高柳,2011).しかし,山村農業の変化の多様性や存立条件に関する考察は,今日なお残された研究課題であるといえる.本報告は,①統計分析を通した1980年代半ば以降における山村農業の変容の一端を明らかにするとともに,②相対的に山村農業が存続している自治体・集落を対象に,山村農業の存立条件について考察することを目的とする.2.『農林業センサス』にみる山村農業の変容 本報告で取り上げる山村は,山村振興法における振興山村の「全部山村」を対象とする.1985年と2005年の農林業センサスから,総農家数,経営耕地面積,一戸当たりの経営耕地面積の各指標の増減率を分析した.その結果,北海道と北海道以外の山村では異質の変化を確認できた.農家数は,全般的に減少しており,とくに北海道の山村自治体において大きく減少している.経営耕地面積および一戸当たりの経営耕地面積は,北海道において「拡大」している山村自治体が相対的に多い一方で,北海道以外の山村自治体では一部の野菜,果樹(加工品も含む),茶の産地を除いて「縮小」が顕著であることがわかった.総農家数の減少率が主な自治体1.群馬県中里村 96.12.岩手県衣川村 87.13.岐阜県蛭川村 87.14.岐阜県丹生川村 86.55.高知県大正町 85.7※80%以上は31町村(北海道は0)。総経営耕地面積増加率の高い主な自治体(北海道) (北海道以外)1.北海道えりも町137.5/群馬県嬬恋村 113.52.北海道幌加内町112.5/長野県川上村 107.1 3.北海道幌延町 112.1/山梨県丹波山村105.64.北海道苫前町 111.7/高知県馬路村 102.05.北海道豊富町 109.7/奈良県月ヶ瀬村101.2※100%以上は23市町(内,北海道が18町村)。3.山村農業の存続へ向けた取り組み 多摩川源流部に位置する山梨県丹波山村は,2005年現在の総農家93戸のうち,販売農家は12戸に過ぎない.しかしこの村では,在来種を活用した野菜栽培やクラインガルテンによる農業および農地の利活用が進められている.また,隣接する小菅村では,東京農業大学の「多摩川源流大学」が,地域の農林業および農地管理に役割を果たしつつある.縮小を余儀なくされてきた山村農業において,こうした「交流人口」の存在は,山村農業および山村部の農林地の管理にとって重要な意味をもち始めている. 本報告は,科学研究費基盤研究(B)「現代山村における非限界的集落の存立基盤に関する研究」(代表:西野寿章 高崎経済大学教授)の研究成果の一部である.