抄録
今日の日本社会では、人口増加や経済規模の急速な拡大が当分の間は見込まれず、「成長」を目標とするこれまでの戦略よりも、「持続性」や「恒常性」を求めることがより重要性を増すと言われてきている。このような現状は、1990年代以降に地域間格差が一層拡大する中で、地域存続に向けた地域資源活用の取り組みが全国各地で活発化してきたことにつながっている。また、地域振興策に対する近年の関心の広がりは、地域資源の持続的活用法と結びついた地域存続のあり方に結びついているといえ、地域の生活に根ざした持続的な取り組みのあり方や方策についての理解が求められている。本報告ではそれを「地域存続力」と呼び、今後の国土の周辺的な地域の存続のあり方を考える際の手がかりとしたい。では、山村地域において地域が存続する姿とはどのようなものなのか。それは、絶対的な人口規模や経済規模が維持されている状態というよりは、年齢構成のバランスが取れていて自立的な産業が存在していることではないだろうか。つまり、人口は第2次大戦後のピーク時より大きく減少していても、現状の地域の生活を支えるだけの産業があり、将来の人口を再生産する若年・壮年層が存在していれば、「成長」を目指さなくてもよいのである。このように考えた場合、一般の山村では持続的な活用ができる地域資源として、農林業と自然条件を活かした観光業が挙げられ、それが有機的に結合し相乗効果を上げることが期待される。そこで本発表では、大規模農地開発が行われて一定の専業(主業)農家層が存在し、山岳エリアを中心とした観光業が発展している鳥取県西部の大山山麓地区(大山町)を事例に、「地域存続力」がどのように形成・発展しつつあるかについて、地域資源の発掘・開発および域内連携の観点から検討する。