EU域内にある都市(EU都市)で急増を続ける外国人などのエスニック集団は,自らの生活の営みとともに固有の景観を形成し,都市内部に特色ある地区をつくっている。この発表では,ウィーンを事例にしてエスニック景観の特徴を整理し,都市固有の歴史的景観との関係について,コンフリクトの概念を踏まえた考察結果を報告する。 エスニック景観は大きく二つのタイプに分けることができる。すなわち,①出身地から持ち込まれた生活様式や社会組織によって出現する景観と,②ホスト社会における適応の過程で意図的につくられる景観である。このことを念頭に置きつつ,オーストリアの首都・ウィーンのエスニック景観を検討した。 ウィーンにおける外国人のエスニック景観として,まずあげられるのは,移動者の日常生活に対応する食料品などの日用品を販売するマーケットやイスラーム諸国から持ち込まれた生活様式を維持するための団体などによって構成される景観である。なお,ここでは外国人居住地区でのコミュニティの形成・維持を推進するウィーン市によって路上マーケットが認可され,住宅整備事業の一環として建物の更新も行われている。 一方,もう一つの景観としてあげられるのが,ウィーン最大のエスニックマーケットとして知られるナッシュマルクトにみられるようなホスト社会向けにつくられた景観である。そこでは西南アジアや北アフリカ,インド,中国,東南アジアなどから流入した外国人が経営する飲食店や食材店が集積し,その多くはウィーン市民や外国人観光客を顧客としており,それゆえドイツ語や英語による表記が目立つ。ここにはエスニック集団自身の文化を商品化し,ホスト社会に適応するための営みが生み出した景観を確認することができる。 以上を踏まえて最後に,ナッシュマルクトにおいて2010年にウィーン市が着手した整備事業に目を向ける必要がある。この事業は,2015年完成をめざしてマーケットの整備と建物の改修事業に着手した。ウィーン固有の景観とエスニック景観との間にコンフリクトはあるのか,注目したい。