抄録
Ⅰ、 はじめに
改革開放以降の中国では、著しい経済発展に伴い、地方中心大都市でも都市化の進行などにより、都市の地域構造は多核化しつつあるが、工業、住居などの都市機能が都心から郊外への分散により、各都市区においても、多機能化が進んでいる。このような都市機能の郊外分散による地域がどのように変容しているのかについて、明らかにした実証研究は多くない。本報告は青島市膠南大学城を対象として、高等教育機関の立地による近郊地域の変容とその都市全体への影響について検討する。
Ⅱ、 研究対象地域の概要
分析対象地域の膠南大学城は、青島市黄島区の東南の大珠山鎮に位置している。ここはもともと県級市であった膠南市に属していたが、『山東半島藍色経済発展計画-2011』に従い、2012年、国家級経済開発区である青島市黄島区に併合され、青島市の一核に位置づけられた。それによって黄島区は都市機能を充実するために、黄海沿岸に沿う幾つかの郷・鎮区域を新たな都市区域として計画し、都市区域が南部に展開されるようになった。その中で、大珠山鎮では2004年に高等教育機能区域として26.5km2の膠南大学城が計画され、2012年に濱海街道となった。
Ⅲ、 膠南大学城の形成と近郊地域の変容
現在、膠南大学城は5つの大学と5つの研究機関が集積立地し、将来的には約5万人の学生と研究員を擁し、主に船舶に関連する設計、製造、船員等のハイレベルな人材を育成する高等教育基地となる予定である。この開発により、大珠山鎮は従来の農業用地が都市用地に変貌した。これらの高等教育機関の立地は顧崖頭村、海崖村などの区域を中心に計画されたものであり、都市住民となった農村住民の居住環境を改善するために、各村を中心に社区が建設され、道路の整備などが行われた。そして、地域住民の雇用と産学連携のための濱海工業園区が整備され、研究機関や高等教育機関に関連する企業も進出している。特に、2013年には国家的重点大学であるハルビン工程大学青島船舶科技園も建設がはじまり、港湾・船舶製造所・国家船舶実験室等が設置されている。 このように、膠南大学城は黄島区だけではなく、青島市全体の海洋産業の発展にも大きな役割を果たすものと考えられる。膠南大学城の開発は黄島区の都市機能を充実し、周辺近郊地域の都市化を牽引し、黄島区の多機能化を促進している。黄島区は経済機能の強化のみならず、高等教育機能を備えた青島市の新たな核心になりつつある。