抄録
目的 強雨発現の地域性は,降水量極値では時間スケールが短いほど地域性が不明瞭になることが指摘されている(二宮 1977,藤部 2014)。一方で,夏期の関東地方は夕立など短時間の強雨が多発し(岩崎ほか 1999),降水域の挙動の地域性が認められている(澤田・高橋 2002,中西・原 2003など)。しかしながら,これらは降水強度の強化事例について解析したものが多く降水の時間スケールを踏まえた降水発現の詳細な地域性は明らかではない。資料の時間スケールに基づいた降水量階級別の頻度など降水特性の差異は,降水域の挙動などと関連して地域性が認められることが想定される。本研究では夏期の関東地方における毎時および日降水資料による総降水量に対する降水量の階級別発現頻度の地域性を明らかにする。資料 降水資料は,1980~2013年の夏期7,8月(2046日)における毎時のアメダス(104地点)で,欠測が1%未満の地点を対象とした。なお,2007年まではアメダスの降水量観測値の最小単位が1.0mmで,2008年以降は0.5mmである。そこで,2008年以降の0.5mm単位の降水量をそれ以前(~2007年)の資料に合わせることとした。結果 時間および日降水量資料について総降水量に対する各降水量階級の累積寄与率をそれぞれ算出し,それに対しクラスター解析(ウォード法)を施した。地域性を捉える際,複雑にならない程度に類型化をする必要があることを考慮しつつ,クラスター間の距離の指標が不連続となる2から3個目の箇所で両者とも結合を中断した。時間降水量では20mm/h,日降水量では100mm/d程度でクラスター間の累積寄与率の差が拡大している(図1)。すなわち,時間および日降水量ともに夏期の総降水量に対して下位の降水量階級の寄与が大きい地点および上位の降水量階級の寄与が大きい地点,その漸移的な地点が存在する。類型化された地点の分布は地域的にまとまっており,時間降水量(日降水量)は,上位の降水量階級の寄与率が大きい地域は,北部山麓域,東京を含む南関東に点在(北部山地,秩父山地,南関東沿岸に点在)している。一方,下位の降水量階級の寄与率が大きい地域は,平野~沿岸域に分布(北関東を中心に分布)している(図2)。すなわち,北部山地や関東山地および相模灘沿岸では日降水量で,北部山麓域~南関東では時間降水量で大きい降水量階級の寄与が明瞭である。これは,短時間の強雨の発現およびその持続性を反映していると考えられる。そこで,時間降水量で大きい降水量階級の寄与が明瞭な地点を対象に,まとまった降水量として100mm/dの事例について時間降水量の内訳を把握すると,南関東で短時間強雨の寄与が大きい地点(世田谷,練馬)は,小さい降水量階級と極端に上位の降水量階級の寄与率が大きい。北関東(伊勢崎,上里見,桐生)では比較的大きい降水量階級が,関東中部(久喜,熊谷,鴻巣)では小さい降水量階級が日強雨に寄与しており,降水の突発性や継続など地域により強雨の現れ方が異なると考えられる。