日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0601
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発表要旨
インナーシティにおける歴史的建造物の再利用とジェントリフィケーション
大阪市中崎界隈を事例に
*キーナー ヨハネス
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抄録
はじめに近年、長屋をカフェや雑貨屋等の店舗として再利用することが流行となっている。大阪市の場合、長屋は主に再開発がなかなか困難であり、大規模な投資が忌避されがちなインナーシティに残っている。店舗に転用された長屋は、比較的裕福な顧客層向けとして利用されているため、その現象はより裕福な階層の利用する消費空間のインナーシティへの拡大を意味し、ジェントリフィケーションの一種として捉えることができる。本研究では、大阪市北区に位置している中崎界隈(中崎1~3、中崎西1~4)をジェントリフィケーションが進んでいるインナーシティの一例として論じる。ジェントリフィケーションプロセスにおいて、長屋を店舗に転用する人が、どのように物件利用希望者との競争の中で、その利用権を取得するかを明らかにすることを目指している。ジェントリファイヤーの歴史的建造物への要求は、一般の人より強いとシャロン・ズーキンが指摘したことが立論の出発点になる。「ジェントリフィケーションは、空間に向けられた経済的な要求と、歴史的建造物保全主義者とアート生産者の要求に重きを置く文化的な要求をとり結ぶ」(Zukin 1991: 193)。この観点からすると、歴史的な建造物は建築史やアート史等の美的な文脈に限り、最大効果を発するので、改修のための資源や関連する知識やスキルを持っている人に、利用が促された(Zukin 1991)。 インナーシティとしての中崎界隈インナーシティとは、近代都市化の過程において、都心部をとりまく周辺の住商工混在地区である。それは人口の過密、住宅の老朽化、オーペンスペースの不足という住環境問題を抱える地区であり、1970年代後半からは、こうした地域では人口と企業の流出が進んでいた(岩間1982)。中崎界隈では、1923年(大正12年)に、大阪市の最初の都市計画法にもとづく土地区画整理が始まる以前に、開発が始まった。その結果として、街区や道路が不整形でオープンスペースが少なく、人口密度が高い地域として発展した。中崎界隈は第二次世界大戦期に空襲を受けず、経済成長時期にあまり再開発されなかったので、現在においても、古い町並みが残っている。人口と木造家屋密度が高いこと、建物の老朽化と公園の不足等がたえず問題として指摘されてきた(大阪市北区地域開発協議会1986)。1990年代では、中崎界隈における人口の減少と高齢化が進展しており、経済的な衰退も顕著になった。 歴史的建造物の再利用1990年代後半から、中崎界隈に外部からの参入者が運営する店舗(カフェ、雑貨屋、衣料店等)がたくさん開店されるようになり、現在その地域に約200軒が立地している。特に2002年から中崎界隈の店舗がよくメディアで取り上げるようになってから、店舗数が急増した。店舗は「小バコ雑貨店」等とも呼ばれた床面積が比較的狭く、運営者は長屋の改修を自分で行えるので、着手資金と経験をあまり持っていない人も店舗を開くことができる(前田・瀬田2012)。地域の振興町会が中心として行った中崎町キャンドルナイトというイベント等を通じて公の注目を呼び、旧住民も店舗をサポートしている。店舗の発生と同時に中崎界隈の人口は1995年から2000年にかけて、20歳代から30歳代を中心に3,786人から5,260人に増加した。中崎界隈の人口がその新住民は6階以上の中層マンションビルに居住するケースが多く、古い長屋は主に店舗として再利用されているのが実態である。 考察ズーキンの指摘のように中崎界隈の場合にも、店舗主は空間への経済的な要求と、文化的な要求によって利用権を得ている。その文化的な要求は、ズーキン(1991)が挙げたニューヨーク市のような歴史的建造物保全政策ではなく、中崎界隈の地域レベルで認められたものである。長屋の店舗転用は、地域への来客の増加と長屋の価値上昇を期待する家主や、振興町会等に支持されている活性化の戦略として認められてきた。これ故に、家主は長屋を店舗に転用する借主の利用を優先していると考えられる。 文献岩間啓次郎(1982)「大阪市」、大都市企画主管者会議編(1982)『大都市のインナーシティ』大都市企画主管者会議pp. 47-54前田陽子・瀬田史彦(2012)「中崎町における新しい店舗と既存コミュニティの関係に関する考察-長屋再生型店舗の集積形成プロセスと地元住民との関係性に着目して」『都市計画論文集』47(3)、pp. 559-564大阪市北区地域開発協議会編(1986)『北区の地域現況診断(地域カルテ)』大阪市北区地域開発協議会Zukin, Sharon (1991) “Gentrification, Cuisine, and the Critical Infrastructure: Power and Centrality Down- town”, Landscapes of power: from Detroit to Disney World. University of California Press, pp. 179-215
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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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