日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 523
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発表要旨
近代化遺産総合調査における調査対象の分布と類型
*森嶋 俊行
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抄録
1.はじめに
 本発表においては文化庁の近代化遺産総合調査を研究対象とし、近代化遺産とみなされる建造物群が全国的にどのような建造物から構成されているか明らかにしたい。そのために、これまでに行われてきた近代化遺産総合調査のうち、全数調査結果の入手が可能な都道府県の調査内容を対象とし、これらの近代化遺産がどのような産業、保存形態、活用形態、所有管理者属性を持っているかを数え上げ集計し、全国的な分布と類型を明らかにしたい。
2.近代化遺産総合調査の概要
 近代化遺産総合調査は各都道府県の教育委員会を実施主体としつつ、総事業費の半分が文化庁より支出される補助事業である。事業は1990年に始まり、年度ごとに2~3都道府県で2~3年かけて行われ、2013年度までに43道府県で報告書が発行されている。 多くの都道府県においては、近代化遺産は形態と産業で分類されている。具体的な分類内容は道府県間で共通する部分と異なる部分があり、実際の分類方を見ると、先行して調査が行われた道府県を後発の道府県が参考にしつつ、地域の歴史的な産業の状況を加味し、独自の分類方法により調査を行ったことが推察される。そこで、本発表においては、分類方法を発表者の手により統一的に整理した上で、全国的な分布傾向、地域的な偏在の傾向を明らかにし、分布の仕方を決定づける要素を分析していきたい。
3. 近代化遺産の分布
 近代化遺産がその他の文化財に比べ分布において特徴的な点は、近代日本の地域的な産業構造の変化が分布に影響しているという点である。しかし、それは単に昔その産業が盛んであった地域に多くの関連近代化遺産が残るというだけの関係ではない。一つの地域で長期間にわたって一つの産業が継続発展した場合、連続的に同じ場所で設備投資がなされ、その過程で、残っていれば近代化遺産となるであろう建造物は取り壊されてしまうので、多くの近代化遺産が残る地域は、産業の発展過程において立地条件が大きく変わったり、基盤産業自体が大きく変わったりした地域であるということとなる。
 例として、図に、北関東における第二次産業に関連する近代化遺産について、広域市町村圏別の立地分布を示した。図を見ると、常磐や足尾の鉱業、そして両毛や信州の繊維業といった、もともと偏在して立地する産業に関連する近代化遺産は、やはり偏在して立地していることが読み取れる一方で、これらの産業が盛んであったにも関わらずあまり近代化遺産が残存していない地域もいくつかあることもわかる。対照的に醸造業は、歴史的に各地域にそれぞれある程度の産業基盤が成立していた産業であり、これに関連する近代化遺産もまた各地域にまんべんなく分布しているように見える。本発表においては、全国的な近代化産業遺産の分布傾向と日本産業の地域的な構造の変化について、さらなる考察を試みたい。

図 北関東における第二次産業関連近代化遺産の分布
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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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