日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 215
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発表要旨
1931-2010年の区内観測所データによる日本における強雨の経年変化
*鈴木 勇人
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抄録
1. はじめに
強雨に関して,地球温暖化や集中豪雨による洪水など報道されることが多く,被害も生じている.故に強雨の経年変化を把握することはきわめて重要である. IPCC第5次評価報告書では,代表的濃度経路 (RCP) シナリオを用いた上で1986-2005年を基準として21世紀末の予測をしており,強い降水現象の頻度もしくは強度は湿潤な熱帯域と中緯度の大陸の多くの地域で,増加する可能性が非常に高いとしている.日本付近は強い降水現象が増加する可能性が高いことが示唆されているが,地域性に関しての明瞭な見解が出ていない.その他の先行研究でも結果が異なっており一貫した傾向があるとは言い難い.また,いずれの先行研究でも長期間の研究では,気象官署のみのデータを用いたものが多く,期間は100年以上と長いがデータの均質性のため日本全国における強雨の長期変動について地域性を詳細に明らかにしたものは少ない.そこで本研究では,日本における強雨について,経年変化および地域性について次に述べる区内観測データを含めた長期間のデータを用いて特徴を解明することにする.
2. 区内観測データ
区内観測とは,気象庁の地域気象観測システム(Automated Meteorological Data Acquisition System=AMeDAS:以下,アメダスと記す)導入以前(1970年代後半まで)に気象官署以外で行われていた気象観測であり,全国に1000地点以上存在する.項目は主に,気温と降水量であった.そのデータの多くは「マイクロフィルム」や各都道府県の「気象月報」に収録されており,すぐに解析に利用できる状態にはなっていない.記録間隔は初期には0.1mm間隔の観測であったが,1958-1962年に1mm間隔に移行する,日降水量の日界が10時や9時になっているなど変化が大きい.また,戦争の前後には経費のために観測の継続が難しく荒廃した地点も多い.地点名の改変も多いため欠測も多い.また,気象官署に比べて都市化の影響が小さい地点を多く含むという利点もある.
3. 対象地域・使用データ
本研究における対象地域は沖縄県を除く日本全国とする.解析対象期間は1931-2010年とする.区内観測データは1931-1975年,アメダスは1976-2010年を使用する.強雨の指標としては,9つ(R95p, R99p, RX1day, RX5day, R10, R20, R50, R100, R95pT)を用いた.なお,区内観測資料は気候の長期変化を知る上では貴重な資料であるが,均質性に問題がある.そこで,本研究では均質性テストをおこなった.その結果,全国で175地点が均質と判断され,解析に用いる (気象官署を含む) .
4. 解析結果
4-1. 80年間での変化量
ここでは,前章での9つの強雨指標 を用いて1931-2010年の80年間での変化量を各地点で求め分布図を作成した.R10では,増加傾向にある地点もあるものの,減少傾向を示す地点も多い.R50になると北海道を除く広い範囲で増加傾向を示しており,R100になると変化量は小さくなるものの,東海から紀伊半島周辺を除き広範囲で増加傾向を示す.また,単位は異なるがR95p,R95pTの指標でも全国的に増加傾向を示す地点が多く,特に東北地方の太平洋側で増加量が大きい.このような結果は,RX1day, RX5dayでも類似している.
4-2. Mann-Kendall検定
前節では傾向が統計的に有意なものなのか判断できない.そこで,Mann-Kendall検定を用いて統計的検定をおこなった.気象官署のみの結果では,まとまった傾向が見られなかった.ただし,全地点を加えた際の傾向は気象官署の傾向とは異なっていた.R10では北陸周辺で有意な減少傾向となった地点が数地点あったが,その付近に1%の水準で有意な増加傾向となった地点もあり,統一的な傾向はみられなかった.R50になるとR10とは異なり,関東北部から東北にかけて広い範囲で有意な増加傾向がみられた.R95p,R95pTでもR50と同様の広範囲で有意な増加傾向がみられた.また,RX1day, RX5dayでも東北で有意な増加傾向がみられた.どの指標でも東北で有意な増加傾向をしめしたが,一部の地点 で減少傾向を示すという特徴もみられた.
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