日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 712
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発表要旨
東日本大震災伴う津波による企業間取引の喪失と回復の可視化
*秋山 祐樹柴崎 亮介
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抄録
1.はじめに
2011年3月に発生した東日本大震災では東北地方を中心に津波による甚大な被害が発生した.同地震に伴う津波による建物や道路などへの物理的な被害や,人的被害については既に官学をあげて詳細な調査・分析が進められている(関本ほか, 2013;総務省消防庁,2014).一方,企業への津波被害による企業間取引への網羅的な影響評価はまだ殆どなされていない.被災地に分布していた企業の中には津波の影響により事業の継続が困難になり,営業停止や廃業に追い込まれた企業も少なくない.その結果,被災自治体の税収低下や雇用の喪失だけでなく,こうした企業と取引を行っていた被災地以外の企業活動にも影響を少なからず与えたものと考えられる.我が国では今後発生すると予想されている大規模地震に備えて,事業所の高台移転を推進している自治体も存在しており,本研究の成果はこうした自治体の政策立案支援にも有意義であると考えられる.
そこで本研究では近年利用が可能になりつつある企業間取引データを用いて,東日本大震災の津波被害による企業活動の喪失と回復の状況を空間的に把握・可視化することを試みた.

2.データ
本研究では以下2種類のデータを用いた.
(1) 企業間取引データ:株式会社帝国データバンクより提供頂いた日本全国の企業間取引とその取引に関わった企業のデータである.企業間取引データには2008~2013年の約2200万取引の受発注企業のID,取引品目,取引発生時期,推定取引額(高安ほか(2013)の手法で推定)が格納されたビッグデータである.また企業データには企業間取引に関わった約160万社の企業ID,売上高,住所,資本金,従業者数,業種,主業,代表者年齢,営業所数,後継者有無などの情報が格納されている.
(2)津波浸水深データ:東日本大震災に伴う津波の浸水深を,現地の浸水痕の実測を基本として調査し,100mメッシュで整理したものである. 

3.方法
(1) 各企業の住所に基づきアドレスマッチングを行い,全企業データに座標情報を付与した.
(2) GISを用いて浸水深データと企業データを空間結合し,全企業に津波浸水深の情報を与えた.その結果津波浸水域に立地する7,218件の企業を抽出した.
(3) 2008年から2013年の企業間取引データと座標付き企業データを企業IDに基づいて結合し,更に異なる年の同一の企業間取引を集計化することで約590万企業間取引データを整備した.このうち受注側か発注側何れか,あるいは両方が浸水域に分布する取引を抽出した.その結果,35,233件の取引を抽出した.
(4) 津波の企業間取引への影響の広がりを空間的に評価するため,2010年以降の企業間取引に注目し,津波浸水地域に立地する企業が関わる取引の2010年比を市区町村ごとに可視化した. 

4.結果
図1に2010年から2013年の市区町村ごとの津波浸水地域に立地する企業が関わる取引の2010年比を示す.震災が発生した2011年は東北地方を中心に多くの市区町村で2010年比の取引額が減少していることが分かる.2012年以降は被災地から離れた市区町村で回復傾向が見られるようになるが,被災地である岩手県,宮城県,福島県の市区町村を中心に被災前の取引が回復出来ていないばかりか,減少が続いている地域も見られることが明らかになった. 
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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