日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P010
会議情報

発表要旨
プラントオパール分析基づく太田川低地南部の堤間湿地における植生変化の復元
太田川低地に影響を与えた地殻変動との関わり
*飯田 杏奈
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
静岡県太田川低地は南海トラフ沿いに位置する海岸平野で、海岸線に平行な計3列の浜堤列(陸側から浜堤1~3と呼ぶ)が形成されている。太田川低地では6,000~5,000年前頃に内湾が形成され、その後河川などから供給された土砂によって内湾が埋積され、低地が形成された(渡辺1995)。当該地域の地形発達をより詳細に見ると、低地南部では2,000年前頃に海水準が相対的に上昇したことが明らかになっており、1,000年スケールでの地殻変動の影響を反映している可能性が指摘されている(渡辺1995;藤原ほか 印刷中)。  本研究では、当該地域における過去の海岸環境変遷・地殻変動の検出を最終的な目的とし、太田川低地南部の浜堤1・2間の堤間湿地における堆積環境を復元した。この堤間湿地では、廣内ほか(2014)が珪藻分析に基づいて淡水から汽水への堆積環境変遷を報告しているが、海岸地形のどの部分に位置していたのかについては復元できていない。本研究では、江口(2006) によって前浜、砂丘、湿地などの海岸植生の復元に有用であることが示されているプラントオパール分析を用いることで、堤間湿地の堆積環境とその変遷を詳細に復元した。その結果、堤間湿地南部には埋没した浜堤・砂丘が存在すると推定され、年代測定値を考慮すると、埋没浜堤・砂丘の形成時期は約4,000 cal BPよりも前である。また、  この埋没浜堤・砂丘を覆って湿地堆積物が堆積するため、4,000 cal BP頃に湿地が形成されたと考えられる。その後、1,600 cal BP頃に低地には干潟が形成され、低地の海側には砂丘が形成されたと推定される。  低地内部に再び潮汐の影響が及ぶようになったことは、相対的海水準の上昇によると考えられる。また、掘削地点において砂丘堆積物が標高0 m以深に分布し、これらを湿地や干潟の堆積物が覆うことも砂丘形成後の沈降傾向を示唆する。これらの環境変化は、渡辺(1995)や藤原(印刷中)の指摘する1,000年スケールでの沈降傾向と整合的であり、低地一帯が沈降したことが原因であると推定される。
著者関連情報
© 2015 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top