日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 609
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要旨
福山誠之館同窓会蔵の一地球儀 (Max Kohl’s globe) に関する疑問
*宇都宮 陽二朗三村 敏征ヴォーシュレーガー ハイデ
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抄録

1.はじめに  本稿は報告者の一人が舶来地球儀を調査中に福山誠之館同窓会蔵の地球儀類を知り、同会事務局長の三村敏征氏に写真や情報を頂き、吟味した処、製作者に疑義が生じた。コロネリ学会に画像と2,3の吟味資料を送った。同学会事務局のWohlschläger女史よりの情報/意見をもとに再吟味した結果を報告する。 2.福山誠之館同窓会蔵の地球儀類 本地球儀を含む書籍や測量器機、科学教材は阿部家より寄付されたとされる。阿部正弘が嘉永6(1853)年)に発案し、翌年にかけて江戸と福山に藩校「誠之館」が開かれたが、学制発布(明治5(1872)年)で廃校となり、小田県師範などを経て、現県立福山誠之館高校となった。その誼で同家旧蔵品等が寄付されたという。 3.MAX KOHLの地球儀 3.1地球儀の直径及びコ゛ア: 地球儀のスケールはcm単位で42Wx42Dx71H。球の直径は30.9cmで、英文表記のFloor stand型の地球儀である。ほぼ80°以北のpolar capには海岸線などはなく、20°毎の子午線のみが描かれ、82,3°より高緯度では、真鍮(?) の保護+地軸で隠される。赤道に接合が無く、南北緯度80°、東西で経度30°毎に貼られたコ゛アは12枚からなる。地平環及び支柱と3脚は木製で、前者の上面の真鍮(?) 板の表面に英表記の季節、月と羅・英併記の12星座の各名称がある。 3.2 経緯線について: 球面のコ゛アには10°間隔の経緯線及び赤道と同様の梯記号による黄道が描かれている。10°毎の子午線の一つはニューカッスルから、London西方を通過し、現緯度より2,3°西にあり、黄道最北点はAzores諸島及びCape Verde西方を通過する子午線(現在の西経32,3°付近)と交会とする。一方、赤道との交会点はオマーンのHadd岬の西及び、サンフランシスコ付近を、各々通過する子午線と一致する。従って、原初子午線は、Cape Verde西方を通過する子午線と推定される。 3.3 海陸分布: 北半球ではN80°の高緯度まで、海岸線と国名など、地理情報が描かれている。 3.4 山脈の表示: Raiszの言を借りれば、小縮尺図の世界図の毛羽表示による山脈は、毛むくじゃらの毛虫をなす。 3.5 水系 黄河の分流: 黄河(Hoang-ho or Yellow R).は、本地球儀では、開封東方の黄海と渤海に注ぐ2分流に命名されているが、18世紀後半~19世紀にかけては、開封付近から山東半島の南麓をかすめ黄海に注ぐ黄河を認める。 3.6 国境線と国名: 国境線は、印刷された破線、それに重合する着色線及び着色線のみの3種類からなる。石版印刷による改訂容易さはあるが、これには、コ゛ア印刷時とその直後、着色線には年数を経た後日の改描もあろう。 中南米は現在の名称とほぼ同じであるが、ハ゛ルカン半島、アフリカ、東亜は著しく異なり、Balkansでは、オスマン帝国が広域を占める。 3.7 製作年代: 球面上のコ゛アで、製作年代を示す地名や国境線は、各々1) 東欧ハ゛ルカン半島、2)アフリカ, 1891-1908, 3)日本周辺、日ソ国境,1905, 山東半島の都邑港湾名の独製地球儀への表記年代, 1898以降,4)後年のユーザによる1935年等の加筆を除くと、中・南米では1904の国境などの各地域の情報から、1898-1908年の間に、この地球儀は、製作されたらしい。 3.8花枠飾り(cartouch): 花枠飾りには「TERRESTRIAL GLOBE/ Carefully compiled from the best Authorities/ Berlin/  MAX KOHL A.G. CHEMNITZ」とあり、下線部が別書体で、黒色に塗りつぶした枠内の白抜き文字(逆版印刷)であること、図案上の統一性のないこと、この科学器機販売会社がCHEMNITZ以外の製造地(?) のBerlinを記すなど疑問が多い。従って花枠飾り上半分のフォントと異なる逆版印刷の「MAX KOHL A.G. KEMNITZ」は印刷済の会社名の消去後の上重ね印刷/押印を示唆する。 Max KohlはM&Aで地球儀製造会社を取得したのか、Berlinで地球儀製造を開始したのか、元の製作社名を同社名に誰が何処で何故に替えたか?独国内か日本か,邦人にその才覚があったのかの疑問が残る。 3.9 誤植について: 三村氏指摘の“SOUHT” は独語の綴りで”ht“に慣れた独人の誤植で、英語圏では販売数は限られ、同社の本格的な地球儀の取扱い部門は短命であったと推定される。 4. まとめ この福山誠之館同窓会蔵の[Max Kohl]の地球儀は誠之館廃校後の1898-1908年の製作であり、師範学校、中学等の学校教材として購入されたと考えざるを得ない。 また、花枠飾りからこの地球儀は他社の製造した地球儀に“MAX KOHL”社名を上書きした事は明らかであるが、誰がどこで何時、何故に改竄したかは不明である。これは黒枠内の黒染料の化学分析で解明できよう。 なお、オリシ゛ナルの地球儀製作社の名称等については、Ms. Wohlschlägerが調査中で近い将来、明らかにされよう。

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