日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 604
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要旨
クラウドGISを用いた開発・参加型GIS教育の性格別による学習上のつまずきについて
*関 晃伸安納 住子
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抄録

研究背景及び目的
高校の授業においてGISを使う有効な点は,社会的ニーズの高い空間情報を扱う技術を早い段階から養う事ができ,生徒自身の空間的な認識及び地理的なものの見方を育むのに効果的である.しかし,高校におけるGISを活用した授業は地理学・情報学・測量学の授業に限られており,大学及び大学院のカリキュラムと比較してもGISを利用する頻度は少なく,また,高校の地理歴史科教育においては,世界史が必修であり,地理を履修せずに卒業する生徒が多い.そのため,土木技術者に必要な空間把握能力や地理的技能が低下する恐れがあり,それを防ぐためにも高校で実施する意義がある.
高校におけるGIS教育に関する既往研究は,国土交通省国土政策局がGISを活用した授業を紹介している.しかし,新学習指導要領の狙いを達成するために,開発教育及び参加型学習をGIS教育に取り入れている研究は少ない.また,生徒の性格や学習上のつまずきに着目したGIS教育の研究はあまりない.
そこで本研究では,既存のGIS教育に情報端末を活用したクラウドGISに加えて開発教育及び参加型学習を取り入れたワークショップを実施し,開発・参加型GIS教育における性格別による学習上のつまずきの特徴を明らかにした.

研究方法
学習者の性格調査及び分類
東大式エゴグラム(TEGⅡ)を用いて,エゴグラムの最高値・最低値より性格を10パターンに分類した.分類パターンは,良心的な性格(CP-HI),いい加減な性格(CP-Low),世話好きな性格(NP-HI),淡白な性格(NP-Low),合理的な性格(A-HI),素朴な性格(A-Low)活発的な性格(FC-HI),おとなしい性格(FC-Low),素直な性格(AC-HI),わがままな性格(AC-Low)とした.

解析方法
授業の理解度に関するアンケートの集計結果を用いて,生徒の学習上のつまずきの抽出を行うため,因子分析とテキストマイニングを行った.また,Kit-Build概念マップより得られた学習者マップとこちらで事前に作成したゴールマップ(教授者マップ)を比較し,生徒の学習上のつまずきの抽出を試みた.

研究結果
因子分析の結果より,素直な性格(AC-HI)は,クラウドGISの操作につまずいている事が明らかとなり,また,アイスブレイクやイメージマップといった開発教育及び参加型学習の学習方法にはつまずいていないことが明らかとなった.素朴な性格(A-Low)は,調査時における問題点のピックアップにつまずいている事が明らかとなり,また,イメージマップといった開発教育の学習方法にはつまずいていないことが明らかとなった.
テキストマイニングの結果より,活発的な性格(FC-HI)は,開発教育及び参加型学習に出てくる言葉及びクラウドGISの理解につまずいている事が明らかとなった.またいい加減な性格(CP-Low)は,大衆の前での発表につまずいている事が明らかとなった.
Kit-Build概念マップの結果より,つまずきが抽出された箇所をゴールマップに図解化した.その結果,最もつまずいた箇所は,「イメージマップ」と「ブレインストーミング」の間で,次に多かった場所は,「アイスブレイク」と「イメージマップ」の結び付きが明らかとなり,導入部の始めであるアイスブレイクから展開部であるブレインストーミングにかけてつまずいている事が明らかとなった.

 考察
t検定の結果より,生徒のGISの印象がワークショップ前後で好転したが,被験者数が少ない分類では解析を実施する事ができなかった.また,学習上のつまずきの特徴に関しても明らかにできていない性格があった事から,さらに被験者数を増やして検定及び解析する事が今後の課題である.
東大式エゴグラム(TEGⅡ)のエゴグラムの高低より性格別に学習上のつまずきを明らかにしたが,学習者の学力や空間的イメージの捉え方から分類を行い,様々な角度から学習上のつまずきの特徴を明らかにしていく事も必要である.
テキストマイニングの共起ネットワーク分析を実施する際,今回は共起関係の絞り込みを行う際のJac-card係数を0.2と設定し解析を行った.その結果,学習のつまずきとは関係ない言葉も多く出現してしまったため,今後解析を行う際は,Jac-card係数を0.3~0.5と調整する事で学習上のつまずきとより結び付きの強い言葉を明らかにできると考えられる.
Kit-Build概念マップでは,学習上のつまずきの発生時点について明らかにしたが,Kit-Build概念マップを実施する際に作業に遅れが出てしまったため,もう少し簡易に実施できるように改良する事が今後の課題である.

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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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