日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 1007
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要旨
ペルー南部海岸ナスカ盆地のプキオ・システムの成因仮説
*阿子島 功
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抄録

1.ペルー、ナスカ盆地のプキオ・システム
   極乾燥のペルー海岸沙漠のナスカ盆地に特有のプキオ・システムは、涸れ川の伏流水を利用するための [地下水道プキオ・開渠アセキア・溜池コチャのセット]を典型とする。地下水道はわが国のマイマイ井戸に似た縦坑(オホ)で管理され、伏流水は自然流下によって開渠・溜池を経て耕地に導かれる。盆地内の降水は少なく不安定であり、河川の水源は東側約50~80kmに分水界がある高度約4,000mのアンデス山地の西斜面に降る夏季の雨である。
プキオシステムの形成年代はナスカ時代中期から(紀元後500年頃~)とする説と地下水道方式はスペイン時代とする説がある。 プキオ・システムの成立に関して、従来述べられていない「微地形との関係」を検討し、その成因仮説を得た(阿子島2015東北地理学会春)。その補強材料を述べ、さらに盆地中央のナスカ川にあって盆地北部のインヘニオ川にはないことからその成立条件を考察した結果を述べる。
 2.氾濫原の微地形からみたプキオ・システム
  ナスカ盆地のなかの礫漠の台地面の広がりに対して相対的に狭い開析谷底面(ナスカ川やインヘニオ川の氾濫原面)はriver oasisとなって人々の生活を支えた。 これらの河川では表流する季節が夏季の特に1-3月に限られるので、通年で伏流水を利用するプキオ・システムが作られた。現在は動力汲み上げ井戸が微地形を選ぶことなく点在し、プキオ・システムの管理が放棄されたものもある。
  ナスカ川中流では夏季の表流水を利用するため河岸堤防に取入口が設けられている。その位置は堤内地のなかの旧河道である。プキオ・システムの分布は、Schreiber and Lancho(1995,2002)が30を記載し、1:25,000地形図にナスカ川沿いに13が図示されているが、それらの精度では微地形分類図と重ね合わせができなかったので、プキオの位置を現地調査と人工衛星画像(QuickBird, GoogleEarth画像)によって読み取り、SRTM3(約100m格子)から作成した5~10m間隔等高線図と重ねた。その結果、プキオの多くは(堤内地の)旧河道に沿っていることがわかった。よって、「無堤であったナスカ時代などには、出水後に旧河道にそって一時畑が作られ、渇水時には水を求めて旧河道を掘り下げたことがプキオの始まり」と考えることができよう。渇水年にプキオを掘り下げた例、トレンチの壁からトンネル状に掘り進めようとした例、手指形の取水部の例がある。
3.   構造からみたプキオ
   プキオ・システムは砂礫層を掘削し、野面石積みで壁が作られている。地下トンネル方式は、スペイン時代になってアラビアなどから移入されたとする考えがあり(Schreiber and Lancho 1995,2002)、小堀(1960)は言葉からイランのカナートなどとの関わりを示唆した。
   地下水位も季節変化がある。ナスカ川中流のOcongalla Puquio(取水部は氾濫原面から深さ約6mの開渠、通常水深0.3-0.5m程度)では、2014年12月には乾いて底がみえ、2015年1月にナスカ川に流水があらわれるとともに地下水位が1m強上がって上部の壁が崩壊した。このことは深い開渠の壁面は不安定であり、安定を図るために埋め戻して地下トンネル方式に改造したことを示唆している(従来は砂や塵を避けるためと説明されてきた)。Orcona puquioでは先頭はオホであるがすぐ多段の長方形の開渠となり、開渠区間を覆って埋めたように見える。
 4プキオの地形学的位置
   ナスカ川中流の氾濫原は扇状地河川の性格を帯びており、通常は伏流区間となっている。プキオ・システムは中流に多いが、下流のカワチ神殿付近にもプキオがあることが新たにわかったので、水不足が神殿の廃絶、中流への移動をもたらしたとう従来の考えはなりたちにくい。断層湧水がプキオを涵養する、さらに地上絵が断層位置を指示する説(Johnson,1988、Johnson et al ,2002)は妥当性を欠く(阿子島2008,2010)。
5.ナスカ川氾濫原とインヘニオ川氾濫原の比較
 ナスカ盆地北部のインヘニオ川氾濫原には地下水道方式のプキオシステムが無い。河岸に取水門、堤内地に開渠と溜池がある。渇水季でも堤外地に浅い溝を掘って堤内地の開渠に導くことができているところもある。インヘニオ川中流はナスカ川中流に比べれば水を得やすいようである。
   インヘニオ川中流の表流・伏流区間は途中からの取水のためか断続的で複雑である。パンアメリカンハイウエイの橋付近では通年表流(2004-2015の観察)、その下流に伏流区間があり、再び表流する区間(LaBanda)もある。

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