日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P039
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要旨
登山道侵食の3次元計測・解析手法の開発と大雪山国立公園におけるその適用
*渡辺 悌二石川 正樹小林 勇介
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キーワード: 登山道侵食, 3次元解析
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抄録

日本の山岳国立公園では過剰利用等による登山道の侵食が問題となっており,それに関する研究が行われてきたが,研究は断面測量による2次元的な見地のみに留まっていた。1990年代頃から3次元的に侵食を把握する方法として写真測量が登場し,それを用いて侵食量を測定する手法の研究がなされてきた。太田(2004)は,当時の写真測量の技術を用いて侵食量を調査する際に必要な手順をまとめたマニュアルを作った。しかし,この手法の利用には専門知識および解析技術の修得が必要であった。最近になって写真の3次元(3D)化技術は進歩し,対応点を自分で設定しなくても自動で3Dモデルを作成できるようになった。3Dモデル作成のためのフリーソフトも多く出回るようになったが,撮影条件による解析の可否など未知数の部分が多い。  一方,日本の山岳国立公園では管理に係る人手と資金が不足し将来的な不安が懸念されている。大雪山国立公園では,ボランティアや一般登山者も登山道管理に参加する「協働型維持管理」が提唱されている。そのためボランティアや一般登山者でも簡単に侵食量を求めることができるようになると良い。  こうした背景から,写真3D化ソフトを用いて登山道侵食を把握するための手法を開発することを第一の目的として研究を行った。本研究では,次にその手順をまとめたマニュアルを作成した。その際,専門知識を必要とせず,できるだけ低予算で使える手法を提唱した。さらに,開発した手法を用いて登山道の侵食計算を行い,太田(2004)が調べた侵食量と比較して侵食状況の変化を明らかにした。  Visual SfM,Agisoft Photoscan,ArcGIS,Easy Mesh Map,Mesh Labのソフトを用い,4通りの方法で侵食量算出が可能になった。また,精度検証の結果,使用するソフトやカメラ(レンズ),撮影高度や撮影距離,撮影枚数の違いにより,生成されるモデルに差が出ることがわかった。すなわち,(1) 撮影枚数が多いほどより高精度な3Dモデルが作成できること,(2) 使用したカメラの中ではRICOH GRが最も適していること,(3) 撮影高度が低い場合はモデルの作成が難しいことが明らかになった。コストが最も低く,精度検証においても比較的精度が良かった,Visual SfMとMesh Lab,Easy Mesh Mapを用いた手法が,一般向けには最良の手法であると結論した。  そこで,次にこの手法を用いて実際の登山道の年間侵食量を調査した。調査した場所は大雪山国立公園の旭岳周辺と裾合平から愛山渓に向かう登山道である。ここは太田(2004)が侵食量を調べた地域であり,その測定個所と同じ個所において侵食量を調べた。現地調査の結果,太田(2004)が当時調べた101か所の測定ポイントのうち50個所を現地にて確認し調査した。侵食量を調査した結果,太田(2004)の結果と同じく,一概に全ての測定個所において侵食を受けているわけではなく,堆積している個所も多数あることがわかった。2003年〜2015年の侵食・堆積量について,いくつかの測定ポイントでの例を表に示した。本研究の実施には科学研究費補助金「持続的観光への展開を目指した協働型登山道維持管理プラットフォームの構築」(課題番号15K12451,研究代表者:渡辺悌二)を使用した

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