抄録
目的:暑熱による疾患の気候学的特徴は,これまで都道府県単位(藤部 2013など)および市単位(星ほか 2007など)の差異を中心に議論がなされてきた.また,全ての年齢層を対象とする調査がほとんどで,年齢層別として義務教育段階を対象とした調査では,運動時について解析されている(渡邊ほか 2017).本研究では,夏期の高温地域で,ヒートアイランド(河村 1964など)や,高温出現要因(渡来ほか 2011)の解明でも着目されている熊谷市を対象とし,義務教育段階の児童生徒在校時において暑熱が影響した保健室の来室人数と暑熱環境の地域性を明らかにする.
方法:2016年5~10月を対象期間とし,熊谷市の小(29校)中学校(16校)において,養護教諭の判断に基づいた暑熱が影響した来室人数,および暑熱指標として小学校の敷地内で観測された気温・湿度,それらから算出したWBGTを用いた.1分間で得られる観測値は,正時の値を採用し,観測されていない中学校は最寄りの小学校の値を参照した.
結果:WBGTが厳重警戒段階以上(≧28℃)に達した日数が高頻度の地域は,熊谷市北西~南西部を中心に認められ,北東~南東部や熊谷駅周辺でも頻度が比較的高い(図1).一方で来室者割合の極大は,熊谷市北東部や東部,南東~南西部を中心に認められ都心では割合が小さく(図2),厳重警戒段階以上のWBGTが高頻度の地域と来室者割合の大きい地域は必ずしも一致していない.児童生徒の来室(1校以上)日のうち,WBGTが最高を示す時刻とほぼ対応する最高の気温と湿度について,地点平均に対する全地点平均の差は,気温は熊谷駅周辺の都心および比較的都市化が進展している鉄道沿線で正偏差が,郊外の北部および南部に負偏差が認められる(図3).湿度は気温で正偏差を示した都心では負偏差,北東部や東部,郊外の南東~南西部で正偏差が認められる(図4).すなわち,来室者割合が大きい北東部や東部,南東~南西部は湿度の高い地域に対応している.湿度の地点平均に対する全地点平均の差と来室者割合は,統計的には有意な相関(r=0.29)を示し(図5),気温については有意な相関(r=-0.04)は認められなかった.以上のように,義務教育段階における暑熱が影響する不調には,気温のほかWBGT値に関わり身体の放熱と関連する湿度,および両者の関わりが地域によって異なっている.したがって,地域に応じた暑熱対応の多様性が必要と考えられる.
