主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2019年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2019/09/21 - 2019/09/23
本報告では産業を支える「労働力」がそれを提供する人びとの「生活」によって再生産されることに着目し,在来・近代産業における「労働」と「生活」の関係と論理を明らかにすることを目的とする。予察として,産業勃興期における日本とアメリカの比較から,「労働」と「生活」の関係と論理の差異とその規定要因に言及する。
主たる研究方法は,①統計などによる女性労働と家族労働の把握,②日本の織物業地域の史料分析,③アメリカ合衆国ボストンのWomen’s Educational and Industrial Union, Boston(以下WEIU)史料の分析とする。
「労働」と「生活」が未分化の小規模家族経営における女性労働は,労働力配分と完全燃焼の一環に位置づけられていた。家族内分業が備える柔軟性と強靭性は在来産業を支える重要な基盤となっていた。労働力の再生産を支える「生活」は「家族」がそれを引き受けていた。
近代日本の産業勃興期において「労働」と「生活」は分離し,女性労働者の衣食住,娯楽,衛生,教育などは主に工場がそれらを引き受けた。男性労働者は「家族」によって再生産された。一方「農村」は景気変動に対応するバッファーとしての役割を果たし,大局的に見れば,「生活」の再建は工場,家族,農村がそれを引き受けた。
19世紀の産業勃興期のボストンでは、移民が増大し,1877年に設立された中間団体としてのWEIUが,働く女性たちの「労働」だけでなく,「生活」を積極的に調査し,把握したうえで支援することを目指した。このような動向は,全米組織the National Woman’s Trade Union Leagueにも見られた。
「労働」と「生活」の視点から見て,「労働生活分離型」の日本,「生活労働一体型」のアメリカという特徴が見られた。その規定要因として①ジェンダー規範,②労働市場と社会構造,③産業勃興期の地域社会が孕む問題の違いが挙げられる。