日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 437
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発表要旨
立山カルデラの火口湖新湯の水位変動と水蒸気噴火との関係
*福井 幸太郎藤田 裕行菊川 茂飯田 肇
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抄録
1. はじめに
水蒸気噴火はマグマ噴火よりも小規模なため,従来から行われてきた地震や地殻変動の観測だけでは,噴火の前兆を捉えることが難しい.このため,現在,水蒸気噴火の兆候を早期に把握するための新たな手法の開発が求められている.本研究の目的は2014年から間欠泉になっている立山カルデラの火口湖新湯の水位変化から水蒸気噴火の兆候を把握できないか検討することである.まず,現地観測から2014~2018年の新湯の水位変化の特徴を把握する.つぎに間欠沸騰泉の数理モデルで,観測された新湯の水位変動を再現し,新湯直下の温泉水貯蔵層への熱供給が増加して水蒸気噴火のリスクが高まった場合,水位変動にどのような変化が生じるのか数値実験を行う.
2. 新湯の水位変動
新湯の湖岸に設置したタイムラプスカメラの画像からは,温泉水が湖底の噴出孔から噴出して,水位が徐々に上昇,4日前後で満水になり,一定期間,満水状態が継続した後,噴出孔に温泉水が逆流して,半日で干上がった状態になり,約4日後,再び噴出が始まる様子が読み取れた.なお,以下では,水位上昇時間と満水時間を合わせて噴出時間,水位低下時間と干上がっている時間を合わせて休止時間と呼ぶ.
噴出時間は4日ほどで終わることもあれば,72日にわたることもあり,ばらつきが大きかった(図1).これに対して,休止時間は全観測期間を通して4日前後(最短約2日,最長約6日)とほぼ一定であった(図1).
3. 数理モデルによる計算結果と考察
間欠沸騰泉の数理モデル(Kagami 2017)を用いて,地下の熱源から温泉水貯蔵層へ単位時間当たりに供給されるエネルギーα(図2)の違いによって休止時間にどのような変化が生じるのか検討してみる(図3).
モデルからはαが増加すると休止時間が短くなる結果が予想された(図3).現地観測結果からは,2014~2018年の約5年間,休止時間が4日前後で一定であることが明らかにされている.これらのことから,新湯地下の温泉水貯蔵層へ供給される熱量は2014~2018年の約5年間,ほぼ一定であったことが推測される.
浅部熱水の加熱は水蒸気噴火の準備過程のひとつと考えられている.このため,休止時間が短くなった場合は,水蒸気噴火のリスクが高まっている可能性がある.
文献: Kagami, H. 2017. Proc. SPIE, 10169, p.101692K-1 – 7.
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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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