日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 505
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発表要旨
大規模火山噴火後の地表気温応答の評価 -ENSOとの関連性-
*北林 翔高橋 洋
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抄録

1. はじめに

 火山噴火は気候変動を引き起こす主要な自然現象の一つである.大規模な火山噴火が発生すると,噴煙は成層圏にまで達し,硫酸エアロゾルが成層圏に放出される.その硫酸エアロゾルが太陽放射を散乱・吸収することで,地表面付近で気温が下がることが知られている(Robock, 2000).硫酸エアロゾルは成層圏の低緯度から高緯度へと向かう循環によって輸送される上,沈着が起こりづらいので,数年にわたって全球的な地表気温低下をもたらす.

 全球の気温変化をもたらす現象はその他にも存在するが,上述の火山噴火の影響とほぼ同じ時間スケールの現象として,エルニーニョ・南方振動(ENSO)が存在する.ENSOはその位相によって全球地表気温への影響が異なり,エルニーニョ(EN)発生時は全球地表気温が上昇,ラニーニャ(LN)発生時は低下することが知られている (Trenberth et al., 2002).

火山噴火の地表気温への影響からENSOの影響を分離して評価することは難しい.その理由として過去50年間ほどの間に発生した大規模噴火前後でENが発生しており,観測データ上では両者の影響が重なって現れていることが挙げられる(Ohba et al, 2013; Zanchettin et al., 2013).

 以上のことから本研究では全球気候モデルの歴史実験出力を用いて,火山噴火に伴う全球地表気温変化の推移の見積もりについて,ENSOの位相の違いに注目して調べることを目的とした.

2. 使用データ・手法

 第5次結合モデル相互比較計画(CMIP5)の歴史実験の地表気温・海面水温 (SST) ・地表面下向き短波放射フラックス量 (DSWF) を用いた.解析対象期間は1951年から2000年とし,月平均データを用いた.また1886年から1915年に関しても副次的な解析期間とした.解析領域は南緯60°から北緯60°とした.

 まず気候モデル・観測データのSSTの気候値からの偏差を導出,その偏差に対してEOF解析を行い,ENSOの卓越した最も分散の大きなモードを抽出した.その後導出したSSTのENSOモードの時間関数と地表気温の気候値からの偏差との間で回帰分析を適用し,地表気温のENSOモードを求めた.そうして得られた地表気温のENSOモードを元の地表気温からの偏差から引くことで,ENSOモードを除去した.続いて各アンサンブルメンバーを噴火事例ごとに火山噴火発生時のENSOの位相(EN・LN・遷移期(NT))で分類し,各噴火事例でコンポジット解析を行い,噴火前後の気温推移についてENSOの位相を基準に評価した.

3. 結果

 各噴火事例の前後で全球平均地表気温がどのように推移しているのかを確認した.ENSOモードを除去した上でも,EN・LNメンバー平均した全球平均地表気温がアンサンブル平均値に大きく近づくわけではなく,依然両者の違いを保ったままであることがわかる.このことは,ENSOによる直接的な全球平均地表気温への寄与を取り除いたとしても,ENSOの位相間で噴火後の全球平均地表気温変化量が異なることを示している.

 また,ENSOの位相の違いに着目して全球平均地表気温推移をみると,多くの噴火事例でENSOの位相間で地表気温低下の極小の継続時間が異なる.また,その後の気温上昇割合も位相間で異なる.ただしこの傾向は噴火事例間での違いも見られ,これはENSO以外の内部変動の影響の存在が関与していると考えられる.

噴火後の地表気温変化がENSOの位相間でどの程度異なるのか,定量的な評価を試みた.各噴火後3年間のENSOモードを引いた全球平均地表気温の標準偏差を各メンバーで導出後,EN・LN・全メンバーそれぞれで平均したものを各噴火事例・各ENSOの位相での気温減少量の指標とした.その結果,噴火事例間で平均すると,噴火自体の気温応答に対して,ENSOの寄与はその1/10〜1/5であることが示唆された.

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